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立ち読みコーナー
机の上で飼える小さな生き物
木村義志
カブトムシ・クワガタムシの飼い方

カブトムシ・クワガタムシの名前
カブトムシ 日本人でカブトムシやクワガタムシをまったく知らないという人はめずらしいだろう。あるアンケート(「虫嫌いになった若い人たち」岡田朝雄/日本昆虫協会「蟲と自然」No2)によると、「捕ったことのある虫」「飼ったことのある虫」のなかで堂々の一位にランキングされている。ただし「好きな虫」では、女性票によってホタルが一位となっていた。
 ライバルを指して源氏と平家にたとえることがあるが、虫の世界ではホタルがよく知られている。二十〜三十年ぐらい前までは、カブトやクワガタを「ゲンジ」「ヘイケ」と呼ぶ人も多かった(地域によってカブト−クワガタが入れ替わることがある)。なかなか雰囲気のある呼び方だと思うが、いまは全国的にカブトムシ・クワガタムシで統一されてしまった。このほかにも「サイカチムシ」とか「オニムシ」という呼び名があるが、これらもほとんど通じない。科学図書の普及などによって生き物の地方名が失われてしまうのは残念なことである。
 半可通の科学少年であった私は、京都の山村へ採集に行ったとき、地元の少年たちが「ゲンジ」「ヘイケ」と呼ぶのを聞いて、「この虫はカブトムシ、クワガタムシと呼ぶのが正しい」などと得意になって説明した恥ずかしい記憶があり、いま思えば源氏と平家を輸入し、友だちのあいだで流行らせるべきであったと反省している。


カブトとクワガタの縁
クワガタ 分類学的にいうと、カブトムシとクワガタムシは「科」のレベルでちがっており、いってみれば犬と猫ほどの差がある。
 カブトムシは鞘翅目(甲虫類)コガネムシ科のカブトムシ亜科、クワガタムシは鞘翅目クワガタムシ科に分類される。ただし、カブトムシという種はあるが、たんなるクワガタムシという種はなく、ノコギリクワガタ、ミヤマクワガタなど、クワガタ類の総称として使われる。
 日本産のカブトムシ亜科にふくまれる昆虫は四種しかなく、うち二種は小形で、これがカブトムシならカナブンもコガネムシもみんなカブトムシじゃないかというような甲虫である。
 世界に目を向けると、カブトムシ亜科にふくまれる虫はおよそ一三〇〇種といわれ、体重が五〇グラムにもなる超大物もいれば、日本産の小形種よりさらに小さなものもいる。
 一方、日本産のクワガタムシ科は三七種あり、大は七センチ以上から小は一センチ未満まで、カブトムシよりはずっと多様である。しかし、全世界では一二〇〇種と、カブトムシよりやや少ない。日本にクワガタムシの種類が多いのは、クワガタムシのほうが寒い地域にも適応し、北方に分布をひろげているからだと考えられている。


どんな暮らしをしているか
クワガタ カブトムシやクワガタムシといえば、クヌギの樹液をなめにくるので、樹上の昆虫というイメージがあるが、じつは地中で寝ている時間のほうが長い。
 活発に動きまわるのは夜で、カブトムシは飼育容器の中でもブンブン飛びまわり、「さいかち虫(カブトムシまたはクワガタムシ)の飛ぶことを子は知らず」という川柳があるが、最近の宵っぱりの子どもたちはそれをよく知っている。
 クワガタムシはカブトムシより物静かな印象で、一日の大半を木のすきまや落ち葉の中などで過ごし、飼育容器の中で飛ぶことも少ない。したがって、クワガタムシは飼っているというより保管しているといった印象だ。ただし、ノコギリクワガタやミヤマクワガタなどは比較的活発で、昼間も活動し、野外で真っ昼間から飛んでいる無謀な個体を見かけることもある。なんとも不恰好で、あまりよい飛行家とはいえない。鳥にみつかれば、ひとたまりもないだろう。
 幼虫はいわゆる地虫の類で、枯れて腐食しはじめた植物を大量に食べる。森林の生態系でいえば、落ち葉や倒木などを土に返す役割を担っていることになる。
 カブトムシは腐葉土や堆肥、腐食の進んだ朽ち木などを食べる。クワガタムシは主に朽ち木を食べるが、カブトムシの幼虫が食べる朽ち木よりは新しく、枯れ木のちょっと古いやつとでもいうような木を好む。なんとも的を射ていない表現ではあるが、一度幼虫を採集すれば理解してもらえると思う。ただ両者の可食範囲は一部分で重なっているから、適当な朽ち方の木があれば、両方を飼うこともできる。


木村義志
1955年、大阪生まれ。日本大学農獣医学部水産学科卒業。幼いころから昆虫や小動物に興味をもち、採集・飼育にあけくれる。現在もその延長上で生活している。サイエンス・ライター。日本昆虫協会理事。主著に『学研の図鑑・飼育と観察』(学習研究社)『がくしゅう大図鑑・生き物の飼育と観察』(共著、世界文化社)『熱帯魚と水草』(主婦の友社)などがある。