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立ち読みコーナー
マークス寿子の英語の王道
――はじめの一歩
マークス寿子 / フィリップ・ウッドオール 協力
 私が大学で教えているのは「英語」ではなく、じつは「異文化理解」「異文化コミュニケーション」と呼ばれるものだ。
 これは、英文法や英作文を教えるのが目的の授業ではない。しかし、英語圏の文化を理解するのには英語そのものの感覚がわからなくてはいけないので、英語で書かれた教材を使っている。
 とはいうものの、学生たちのみんながみんな英語がよくできるというわけではない。学生たちは、英語の新聞記事の内容を理解できないことがあるどころか、中学一年生程度の文法の間違いをしてしまったりもする。
 そんなわけで、現実には英文法を教えたり、発音を直したり、英作文を添削することが多い。
 そして、どうすれば学生の英語力を向上させることができるか、つねに考えている。
 私はいわゆる「英語の先生」ではないので、文法書などを使った退屈な「勉強」にはあまり興味がないし、単調な文法の練習問題をくりかえしたところで、本当に英語が使えるようになるのかどうか、疑問に思っている。
 そこで授業では、あまりこまごまとしたことをつめこむのではなく、新聞や雑誌など「生きた英語」が息づく教材を使って、「本当に使える英語」を身につけられるように教えている。

 教室で使う教材、教え方、なぜ学生が覚えないのか、どうしたら理解しやすいか、などの問題について、いつも私の相談相手になってくれるのは大学の同僚フィリップ・ウッドオール氏だ。
 彼はたんにネイティブというだけでなく、いくつもの言語や言語学を学び、そのうえ「外国人に教える英語教授法」の資格を持っている。
 また彼は、理論だけでなく、実際に日本ばかりかスペインやフランスでも長く英語を教えてきたというキャリアの持ち主だ。
 それゆえ英語を国際語として考える視点を持ち合わせており、日本人が英語を学ぶときに生じる独特の問題などもわかっているので、私の悩みをよく理解して、さまざまにアドバイスをしてくれる。

 最近、「英語の近道」や「努力しないで上手になる法」のような本や、ネイティブの先生と「楽しくしゃべる英会話」といったテレビ講座や英会話スクールの広告などをよく見かける。現在は、戦後何度めかの英語ブームだそうだ。
 そして、若い人のなかには、中学高校時代に海外へ語学研修に行った人も多いし、ネイティブなみの発音をする人もいる。
 しかし、日常会話をこえた、自分の意見を述べる、議論をするなどという段になると、とたんに言葉に詰まり、支離滅裂になる人が意外と多い。
 そういう学生たちの英語力向上を願って書いたのが本書だ。実際に学生に教えていくなかで、何がわからないのか、どうすればうまくなるのかを試行錯誤しながらつかんだ実感にくわえ、文法方面のことや英語学などをはじめ、ウッドオール氏にも全面的にご協力いただき、私なりの最良の「王道」の方法を書いたつもりだ。

 正直なところ、私自身、英文法は好きではないし、英語の試験など願い下げだ。しかし、英語の本や新聞を読んだり、映画やテレビを見たりするのは楽しい。それだけでなく、英語を身につけると、国際社会の情報や知識を取り入れ、異文化理解の役に立てることができる。
 まずは、STEP-0では英語を学ぶにあたっての考え方から説明し、STEP-1では、例のイヤな「文法」の説明に入る(が、「最低限のルール」にしぼった)。
 英語をうまく使えるようになるためには、頭ではわかっているつもりの簡単なルールを本当に身につける必要がある。順番に具体的な方法に入っていくので、「はじめの一歩」をばかにせず前からつづけて読んでいってみてほしい。


マークス寿子
一九三六年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。都立大学大学院博士課程修了。一九七一年ロンドン大学LSE研究員として渡英。一九七六年マイケル・マークス男爵(Lord Marks)と結婚。英国責と男爵夫人の称号を得る。一九八五年離婚。エセックス大学現代日本研究所講師を経て、現在秀明大学教授として日英間を行き来している。主な著書に『自信のない女がブランド物を持ち歩く』『ふにゃふにゃになった日本人』『爆弾的英語教育改革論』(いずれも草思社)、『本当の英語力をつける本』(PHP研究所)などがある。

協力:フィリップ・ウッドオール
一九六四年イギリス・ロンドン生まれ。ヨーク大学卒。専門はフランス語、中国語、言語学。アストン大学、ケンブリッジ大学、フランス商工会議所、スペイン・サラマンカ大学などより、英語教授法の資格を受ける。現在は秀明大学において英語、スペイン語を教えている。