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立ち読みコーナー
一生懸命って素敵なこと
林文子 著
まえがき

 二〇〇五年七月に私の第一冊目の本(『失礼ながら、その売り方ではモノは売れません』亜紀書房)を出版したところ、その反響の大きさに誰よりも私自身が驚いた。
 講演などで自分のキャリアについてお話する機会はあるのだが、私の話のあとに「本を読み励まされた」と直接声をかけてくださる方もいる。あるいは「たいへん感動しました」というお手紙をくださる方も多い。
 と同時に、
 「セールスマンになる前のことをもっと知りたい」
 「セールスマン時代のエピソードをもっと読みたい」
 「クルマの世界から流通の世界へ飛び込んだ近況についても知りたい」
 そういったさまざまなご要望も寄せられている。
 多くの働く女性たちは今の自分の状況に満足しているわけではない。若い人であれば、もっと自分に合った仕事をしたい、もっと上司に認められたい、もっと責任のある仕事をしたいなど、さまざまな願望を抱いている。マネージャー職の女性であれば、どうすれば部下をまとめていけるか、業績を上げられるかなど、さらに重要なポストをめざすにはどうしたらいいのだろうかなど、べつの悩みもあるだろう。
 私がキャリアを積んできたクルマのセールスの世界には、残念ながらまわりに女性はいなかった。自分が「ああいう女性になりたい」と思える先輩もいなかったし、悩みを相談できる仲間の女性もいなかった。
 他の業種、他の職業の女性たちは私ほど極端な状況ではないだろうが、やはり、多かれ少なかれ、働く女性としての問題、悩みを抱えている。そして悩みを聞いてもらえる上司がいなかったり、目標とすべき先輩もなかなかまわりにいない。だからこそ、私の本を読んで、共感したり感動してくださるのだろうと思う。
 自分自身についてあれこれと客観的に語るのは気恥ずかしく、きわめてむずかしい作業だが、私のキャリアが、若い女性たちにとって少しでもお役に立てるなら、なんとしてでも書かなければならない。そういう思いから、本書を出版する運びとなった。今回は、人との出会いで育てられた半生を、仕事を中心に、素直に書き綴ることとした。講演でお話する機会もあるが、残念ながら講演では時間も、聴いていただける人数も限られている。本であれば、いつでもどこでも読んでいただけるはずだ。
 二十八年間働いてきたクルマ業界を飛び出し、今また新しい分野でチャレンジの真っ最中の私だが、働く女性たち、とくに若い女性たちに心からエールを送りたい。私のこれまで歩んできた道のりが、少しでも働く女性たちの励み、ヒントになればと願っている。
 もちろん、若い女性だけではなく、幅広い年代の女性、そして男性にも読んでいただければ幸いである。



林文子
1946年、東京都生まれ。都立青山高等学校卒業。東レ、松下電器産業勤務の後、77年、ホンダの販売店に入社、トップセールスを達成。87年、BMW(株)入社。93年、新宿支店長、98年、中央支店長に就任。いずれも最優秀支店に。在任中、フォルクスワーゲングループにスカウトされ、99年、直営であるファーレン東京(株)代表取締役社長就任。4年間で売り上げを倍増させる。2003年、BMW東京(株)代表取締役社長就任。05年5月、(株)ダイエー代表取締役会長兼CEO就任。現在ダイエー再生に賭ける日々である。著書に『失礼ながら、その売り方ではモノは売れません』(亜紀書房)。