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ネットなしには生きられない時代の必読書。待望の邦訳!

ソーシャルメディアに関する俗説が次々と覆される!

 本書は、若者メディア研究の第一人者ダナ・ボイドが、若者、親、教育関係者を含む、166人のインタビューからソーシャルメディア利用の実態を読み解くもの。アイデンティティ、プライバシー、ネット中毒、いじめ、リテラシーなど幅広い視点から、若者がソーシャルメディアと実社会、親や教師といった大人たちのはざまで折り合いをつけようとする姿がリアルに描かれます。 

 いまどきの若者は、四六時中スマホや携帯の画面を覗き込んで、ネットばかりやっている、というイメージがあります。しかし、彼、彼女らの姿を観察してみると、実際はネットにハマってヘンなことばかりしているわけでもない。むしろ、親や教師が顔をしかめる“ネットの問題"は、大人の窮屈な監視をかわすための処世術だったり、現実空間で仲間とつるむ場がないからネットに向かっていたりと、ネットでつながる事情は複雑だということが見えてきます。

 そして、読み進めるうちにネットは、ネットを使う若者たちはこうだといった固定観念が見事に裏切られてゆくところが本書の面白さのひとつです。

ネットに居場所を求める若者たち

 例えば、実名主義をとるFacebookの登場により、ネットでは実名/匿名のどちらがよいのかという議論が活発になりましたが、著者によれば、多くの若者はそもそもFacebookのプロフィール(名前や居住地から年収まで)を偽っているといのです。親から隠れることが理由ですが、彼らにとっては身近な仲間で互いが特定できればよいのでプロフィールは適当でよく、実際には匿名ながら実名同様のコミュニケーションを行っているのです。居住国をアフガニスタンもしくはジンバブエにする若者は多く、単純にリストの最初のAで始まる国と最後のZで始まる国を選んでいるだけとか。こうなると実名/匿名といった議論は意味合いが異なってきます。

 初期のネットユーザーたちは、未知の出会いを求めてインターネットの掲示板やコミュニティに参加する傾向にありましたが、いまソーシャルメディアを利用する若者たちは、ふだんの人間関係をそのままネット上で展開しているだけ。とくに郊外では塀に囲まれたゲーテッドコミュニティが増したことで、外で仲間と触れ合う機会が減り、若者たちにとっては、ソーシャルメディアが交流の場、公共空間になっていることを著者は強調しています。

 このほか、多くの大人たちがネットを使いこなす若者に抱きがちな「デジタルネイティヴ」というイメージも著者は見事に覆します。実際には普通の高校生は、デジタル機器にあまり長けていないし、グーグルの検索結果だけが正しい情報だと考えてしまう若者が少なくないといいますから考えさせられます。

 このように、つながりっぱなしの若者たちのネット利用の実情に深く迫ることで、じつは、私たちのネットとの付き合い方も見えてきます。ネット、ソーシャルメディアなしには暮らせなくなったすべての方におすすめしたい貴重な一冊です。

(担当/三田)

ダナ・ボイド Danah Boyd

マイクロソフト・リサーチ・シニア研究員、ニューヨーク大学助教(メディア、文化、コミュニケーション)。ハーバード大学フェロー。米国における若者とインターネットに関する研究の第一人者。Fortune誌で「インターネット研究における新星」と称されている気鋭の社会学者。

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