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人工知能による脅威は、あまりに過大評価されている。

この上なく腑に落ちる、人工知能論

 昨今、人工知能に注目が集まり、数々の「人工知能本」が出版されています。しかし、そのほとんどが「人類滅亡の脅威となるか」「職を奪われる恐怖」「ディープラーニングなどの技術解説」という3点に終始しています。つまり、「人工知能は技術的に何が可能で、どんな脅威を発生させうるか」という論点です。でも、人工知能を考えるとき、それだけが大事なことでしょうか。そのような「脅威」は、本当に起こるのでしょうか。

 本書の著者は、ごく近い将来に、人工知能は、普通の人にとってもありふれた「ツール」になり、現在人々が人工知能についてぼんやり抱いている「近寄りがたい超越的なもの」というイメージは払拭されてしまうと言います。そうなったとき重要なのは、人々が製品やサービスとしての人工知能を使って「どう感じるか」「どうあってほしいと思うか」です。

 考えてみれば当たり前の話ですが、技術的には実現可能であっても、経済的・社会的理由で実現不可能なものは現在においても数多くあります。だれだって、危ないツールや、信頼性の低いツール、うるさいツールは使いたくありませんよね。それは人工知能においても同じです。どんなに高度な人工知能技術を使った製品・サービスでも、人々が「危ない」「いらない」「気持ち悪い」などネガティブな評価を下したら、受け入れられず、淘汰される運命にあります。人工知能においても、経済的・社会的理由により排除・淘汰されるものがたくさんあるはずです。

 前述のように、これまでの人工知能本は「技術的に何が可能か・脅威か」ということばかりを議論してきましたが、人々は「危険な人工知能」を受け入れないため、その脅威は現実のものとはなりにくいといえます。

 人工知能普及前夜にあるいま、本当に重要なのは「人間は人工知能をどのように受け入れるか」「人間はなぜ、人工知能を欲するのか」という視点です。本書はこの視点に立って議論することにより、既存の人工知能本にない、新鮮な指摘・未来予測をいくつもしています。

「シンギュラリティはもう起きているが、人間はそれに気づかない」

 本書の指摘・予測をいくつか列挙してみましょう。「シンギュラリティはもう起きているが、人間はそれに気づかない」「人間を困らせる人工知能は存在できない」「人工知能は人間の意識を生産活動から解放する」「人工知能で『モバイル』の時代は終わる」「人工知能は『合議制』を取るようになる」。また、人工知能が普及していく過程で「人工知能と人間の役割分担をどうすべきか」「人工知能と人間のインタフェースをどうすべきか」ということが大きな問題になるとも指摘しています。

 結論だけ聞くと意外なものも多いのですが、そこにいたる議論は、過去の技術の進展とそれを人間がどのように受け入れてきたかという歴史や事例、先駆的議論を踏まえており、どれも腑に落ちるものばかり。

 初めて人工知能の本を読む人だけでなく、何冊も人工知能本を読んだという方にも、新鮮な発見がある一冊です。

(担当/久保田)

中西崇文(なかにし・たかふみ)

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授/主任研究員。デジタルハリウッド大学大学院客員教授。1978年、三重県伊勢市生まれ。2006年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。独立行政法人情報通信研究機構にてナレッジクラスタシステムの研究開発、大規模データ分析・可視化手法に関する研究開発等に従事。2014年4月より現職。専門は、ビッグデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析など。著書に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)がある。

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