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日本の鉄道は特殊すぎて世界で役立つ場所が見つからない。 『日本の鉄道は世界で戦えるか 国際比較で見えてくる理想と現実』川辺謙一 著

世界一」というのは思い込みに過ぎない!?

 日本は、新幹線という世界で初めての高速鉄道を、1964年に実現した国です。日本の鉄道は、その後もどんどん便利になりました。毎年、新規開業や延伸があり、相互乗り入れや増発などでサービスが向上し続けたのです。ですから、日本人は「日本の鉄道は世界一」と、ごく自然に考えてきました。当然、新幹線の輸出もうまく行くはず、でした――。

 新幹線を含む鉄道の海外展開は、アベノミクス成長戦略における「インフラ輸出」の一環として重視されています。日本の鉄道は優秀だから、海外へどんどん輸出できて当然、と思っていた方も多いでしょう。でも、その割には海外から「引く手あまた」という状況にはないようですし、苦戦しているというニュースも耳にすることがあります。一体これは、どうしてなのでしょう。

 本書は、日本の鉄道の実力、特性の本当のところ、すなわち日本の鉄道の「立ち位置」を明らかにするべく、日英仏独米のおもに5カ国の鉄道を国際比較するものです。

世界の鉄道利用者の3割が日本! あまりに特殊な日本の鉄道

 本書の第1章の章題は「日本の鉄道は特殊である」。読み始めれば、今まで何の疑問もなく見てきた日本の鉄道が、世界のなかでは、あまりに変わった存在であることに驚かされます。  たとえば、日本は鉄道利用者の数が極端に多い国です。世界中で鉄道を利用している人のうち、3割が日本の鉄道の利用者というほど。新幹線と他国の高速鉄道とを比べても同様です。日本の東海道新幹線では、1時間に10本を超える時間帯もあるほど高密度な運転間隔となっていますが、他国ではせいぜい1時間に1?2本程度。日本くらい高速鉄道の需要が大きな国はほかにないでしょう。

 本書を読み進めるうちに、「日本の鉄道は特殊すぎて、世界で役立つ場所が見つけられない」という現実が徐々に明らかになります。それだけでなく、その特殊性に気づかない国民は現状認識を誤って、鉄道に過大な期待を抱いており、そのことが鉄道関係者に大きなプレッシャーとなっていることもわかることでしょう。さらには、日本の鉄道の未来が、実は楽観できるものでないことも……。

 日本の鉄道は、日本で、そして世界で、どのように生き残っていけばいいのか? 鉄道ファンだけでなく、鉄道業界に身を置く方や、鉄道業界の将来に興味のある方にも、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

(担当/久保田)

川辺謙一(かわべ・けんいち)

交通技術ライター。1970年三重県生まれ。東北大学大学院工学研究科修了後、メーカー勤務を経て独立。高度化した技術を一般向けに翻訳・紹介している。著書は『東京道路奇景』『日本の鉄道は世界で戦えるか』(草思社)、『東京総合指令室』(交通新聞社)、『図解・燃料電池自動車のメカニズム』『図解・首都高速の科学』『図解・新幹線運行のメカニズム』『図解・地下鉄の科学』(講談社)、『鐡道的科学(中国語版)』(晨星出版)など多数。

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