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バノン 悪魔の取引

バノンとトランプ、暗黙のうちに結ばれた「悪魔の取引」

 2016年アメリカ大統領選でヒラリー・クリントンを制し、ドナルド・トランプを第45代大統領に仕立てあげた男、スティーブ・バノン――本書は、トランプの元側近中の側近だった人物の正体とその桁はずれの経歴、またこの人物が奉じる危険で際どい思想を明らかにした1冊である。…ご一読いただければ、バノンとトランプとのそもそもの出会いや二人がどのような関係にあったのか、また暗黙のうちに結ばれた両者の盟約とは何かが了解していただけるはずだ。この点を了解していなければ、2017年8月18日のバノン退任の意味、そして2018年に起きた一連の騒動のいきさつや思惑をすんなりと理解することはできないだろう。

「アメリカの政治史上、もっとも危険な策謀家」

 著者のジョシュア・グリーンがバノンを知ったのは、原書が刊行される6年前の2011年初夏のことだった。当時、香港から帰国したバノンは保守系プロパガンダ映画のプロデューサーとして活動していた。…グリーンはひと目でバノンの存在感に圧倒された。…そうして書き上げた記事が「アメリカの政治史上、この男はもっとも危険な策謀家」である。 
記事は2015年8月8日、ブルームバーグ・ポリティクスに掲載された。…この記事をベースに、バノンや関係スタッフへの取材を改めて行い、さらにはトランプ本人とのロングインタビューを踏まえたうえで、投票日翌日の朝までの出来事が本書には書かれている。

主流メディアを手玉にとる巧妙な戦略

 バノンがトランプ陣営の選挙参謀に就任したのは2016年8月17日。11月8日の本選挙まで、その時点ですでに3カ月を切っていた。だが、ロバート・マーサーという奇矯な大富豪の支援を受け、トランプとは無関係な場所で反クリントンの包囲網はすでに周到に進められていた。トランプにすればまさに渡りに船である。注目すべきはそのメディア戦略だ。ブライトバート・ニュースと政府アカウンタビリティー協会(GAI)との連携、さらに主流メディアを手玉にとり、リベラルなメディアに反クリントンの記事を書かせる手口はまさにバノンならではのものだろう。そして、選挙資源を北中西部地域、すなわちラストベルトに集中させていく。民主党を見限った白人労働者を取り込むことで、劣勢にあった陣営の立て直しをバノンは見事に図った。

アメリカの政治史上かつてない逆転劇

 こうして、アメリカの政治史上かつてない番くるわせが実現する。当のアメリカ国民のみならず、世界中の誰もがその結果に息をのんだ。開票のさなか、トランプ陣営のスタッフが「やばいな。本当に大統領になってしまうぞ」と声を漏らすような衝撃である。その衝撃的な事実がなぜ起きたのか。本書を読まれたいま、それは偶然などではなく、起こるべくして起きた必然のなりゆきだと納得できるのではないだろうか。

アメリカを導いた牘討離淵鵐弌治沖

 政権移行にともない、バノンも大統領の最側近としてホワイトハウス入りを果たす。任命された首席戦略官は新設ポストで、上級顧問としての権限は牘討離淵鵐弌治沖瓩任△觴鸚癖篋幹韻砲曚槁づ┐靴拭ホワイトハウス在任は8月18日までと1年にも満たないが、この間、メディアとは激しく対立している。ニューヨーク・タイムズの電話インタビューに、トランプの勝利を予想できなかったメディアは口をつぐめと言い放つと、主流メディアは野党だと切り捨てた。「イスラムは世界最大の脅威」と叫び、「行政国家の解体」を宣言、パリ協定離脱へとアメリカを導いた影の中心人物こそスティーブ・バノンにほかならない。

「私はチューダー朝のトマス・クロムウェルだ」

「ホワイトハウスのラスプーチン」「バノン大統領」「トランプを操る男」などの異名をとったが、自身に抱いていたバノン本人のイメージはそうではないようだ。大統領選直後の2016年11月18日、エンターテインメント業界の情報誌ハリウッド・リポーターに対し、バノンは単独インタビューを許可している(このときのライターが『炎と怒り:トランプ政権の内幕』の著者マイケル・ウォルフである)。
「闇とはいいものだ。ディック・チェイニー、ダース・ベイダー、サタン、それは力だ」「私は白人至上主義者ではない。私はナショナリストで、経済ナショナリズムを信奉している」とバノンらしい言葉が続く。
記事の最後に発したひと言は「私はチューダー朝のトマス・クロムウェルだ」であった。

(抜粋)

ジョシュア・グリーン

1972年生まれ。ジャーナリスト。コネチカット大学卒業後、ノースウェスタン大学メディル・ジャーナリズム研究科で学位を取得、その後ワシントン・マンスリー、アトランティックの記者や編集デスクなどを経て、現在、ブルームバーグ・ビジネスウィークの上級通信員として国内問題を担当している。ボストン・グローブ、ニューヨーカー、エスクァイア、ローリングストーンなどへの寄稿のほか、Morning Joe(MSNBC)、Meet the Press(NBC)、Real Time with Bill Maher (HBO) Washington Week(PBS)などの番組にも定期的に出演している。

秋山勝( あきやま・まさる )

立教大学卒業。出版社勤務を経て翻訳の仕事に。訳書に、ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』、デヴィッド・マカルー『ライト兄弟』、曹惠虹『女たちの王国』(以上、草思社)、ジェニファー・ウェルシュ『歴史の逆襲』、マーティン・フォード『テクノロジーが雇用の75%を奪う』(以上、朝日新聞出版)など。

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