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立ち読みコーナー
見えてきた宇宙の神秘
野本陽代
第1章 美しき宇宙

  宇宙は美しい。
 心から、そう思う。
 漆黒の闇のなかに浮かぶ星々、星雲、星団、銀河。
 望遠鏡がとらえた鮮やかな色彩、そして繊細な形。
 ただ、ただ、驚き、感嘆してしまう。
 宇宙のあちこちでくり広げられる美の競演。
 心をとらえて放さない、見あきることのない天体の数々。
 それらをじっくり味わいたい。


宇宙の神秘にせまる
 大むかしから、人間は夜空の星を友として暮らしてきた。うれしいとき、苦しいとき、楽しいとき、つらいとき、どんなときでも星は人々の身近にあった。
 しかし、最近では汚れた大気や人工の明かりにじゃまされて、満天の星を存分に楽しめる場所が、身のまわりから消えつつある。それにともない、私たちが夜空を見上げる機会も減った。星空がどこか遠いところに行ってしまったような気がする。
 その一方で、私たちは現在、かつてないほど宇宙を身近に感じている。太陽系から宇宙の果てまで、宇宙のさまざまな場所を「見る」ことができるからである。地上の光学望遠鏡、電波望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡、X線天文衛星、惑星探査機などが、私たちのかわりに宇宙の端々に目を光らせている。
  かつて、天の川は乳白色に輝く光の帯だと考えられていた。しかし、一六〇九年に望遠鏡を初めて空に向けたイタリアの学者ガリレオ・ガリレイは、それが多くの星の集合であることを知った。それ以来、私たちの視野はどんどん広がっていった。望遠鏡の口径が大きくなり、その精度があがるにつれて、また、写真技術をはじめとする記録技術が進歩するにつれて、天体を詳細に観測することが可能になり、かつては存在すら知られていたかった天体を目にすることができるようになったのである。
 いまでは、月でウサギが餅つきをしている、と信じる人はいないだろう。あいまいにしか見えない時代、なにがあるかわからない時代にはファンタジーのはいる余地があった。だが、時代は変わった。ちょっぴり寂しくもある。しかし、かわりに現実の宇宙の美しさ、神秘に触れ、私たちの住む世界がどのような場所で、どのようにしてつくられたのか、真実の物語を断片的ではあるが語れるようになった。美しい天体写真を通して、宇宙の神秘にせまってみよう。


野本陽代
慶応義塾大学法学部卒業。サイエンスライター。著書に『ハッブル望遠鏡が見た宇宙』(共著、岩波新書)『宇宙の果てにせまる』(岩波新書)『ふたたび月へ』(丸善ライブラリー)『宇宙はどこまで見えてきたか』(岩波書店)、訳書にゲルマン『クォークとジャガー』コヴニー/ハイフィールド『時間の矢、生命の矢』(ともに草思社)などがある。