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組織の“集合知”は「つながり」しだいで増幅し、生産性も上がる。

ビッグデータで社会科学を根底から覆す、まったく新しい理論と方法の登場

 さまざまな科学が発達した現代においても、人類は、社会や組織の運営の正しいやり方を、まだ把握していないといえるでしょう。社会学や経済学などがさまざまな理論や方法を数百年にわたり構築してきましたが、バブル経済の予防も、組織の生産性向上も、災害時の効率的な組織運営も、確かな方法がないのが現状です。

 でも、もし「集団の科学」を構築したいと考える科学者が神の視点に立つことができ、集団内の人々のすべての情報を入手できたら、きっと大幅な進歩が期待できるのではないでしょうか。

 人々の移動や身体の動きの履歴、誰と対話したかの詳細な記録、買い物の履歴、SNS投稿やメール送受信の履歴などが入手できたらどうでしょう。さらにそれらを心理状態や健康状態に関するアンケート結果や、集団全体のGDPなどの情報とリンクさせて研究ができたら……。そんなデータが、数週間、数ヶ月、あるいは数年分入手できたら、私たちが集団や組織を運営するスキルは格段に向上し、その結果、人々の福利厚生にも資することでしょう。

 そんな未来は来るのでしょうか――。じつは、それを10年ほど前から実践し、数々の「社会実験」を行ってきたのが本書の著者、マサチューセッツ工科大学(MIT)のアレックス・ペントランド教授です。

どういう組織の生産性が高く、変化に強く、正しい判断を下すか

 本書は、著者の「私は未来に生きている」ということばから始まります。このことばの通り、著者は未来的な実験環境を世界に先駆けて一から構築、実験方法を開発してきました。人々の行動を把握するためのセンサーやスマホアプリの開発、そこから得たデータを解析するための環境など、さまざまな問題を解決してきたのです。もちろん、そのデータから得た結果を説明し、集団の未来を予言することのできる理論やモデルも構築してきました。ですから、本書の内容は、本当に未来から来たものかと思うほど、驚くべき発見に満ちています。

 たとえば、会社組織のメンバー同士の会話のパターン(誰と誰がどのくらいの頻度で話をしたか、一方的に話しているのか交互に話しているのかなど)を計測すると、組織の生産性を予測することができることがわかりました。逆に会話のパターンの改善を促すことで、生産性を向上させることも可能ですし、さらにはその集団の意思決定をより正しいものに導いたり、創造性を増幅させイノベーションを促すことも可能だといいます。この方法論の応用で、バブル経済のような、集団の暴走も予防することも可能になります。

 つまり、これまで「集合知」ということばで比較的定性的に語られてきた集団が持つ知性を、組織内の人々のコミュニケーションのつながり方を把握し、その改善を促すことで定量的に評価し、コントロールすることが可能になるというのです。

 このほかにも、災害やリストラなどの変化に迅速に対応する組織を構築する方法や、人々に好ましい行動習慣をつけさせるインセンティブ設定の新しい方法など、人間集団を正しく運営する上で大きな力を持つ具体的方法を考案しています。

 これらはのべ数百万時間に及ぶ社会実験のビッグデータから得た事実に基づいており、従来の社会科学研究が扱ってきたデータ量とはケタ違い。本書に書かれている研究内容は、社会科学に革命を起こすだけでなく、組織論や経営学、都市計画や制度設計などにも大きなインパクトを与えるものです。

ビッグデータの活用とプライバシー保護は両立できる

 一方で、ビッグデータが大きな威力を持つと、心配になるのが個人のプライバシーです。著者はビッグデータに関する世界的権威ですが、同時にプライバシー保護に関しても各界に働きかけている第一人者であり、「データのニューディール」を提唱しています。これはビッグデータ活用による社会や個人の生活の改善と、プライバシー保護を両立させるもので、具体的な方法やシステムも本書の中で提案されており、著者はその社会実験も行っています。

 本書を読み進めれば、著者の「私は未来に生きている」ということばが、誇張ではなく本当のことであり、私たちの未来の社会や組織はこのようにビッグデータをもとに運営されることで、より良いものになると確信するようになるでしょう。ビッグデータに関心のある方はもちろんのこと、社会科学や経済学などに関心をお持ちの方や、マネジメント/組織運営に携わる人にも、オススメの一冊です。

(担当/久保田)

アレックス・ペントランド(Alex Pentland)

マサチューセッツ工科大学(MIT)教授。MITメディアラボ創設から関わり、現在は同ラボのヒューマンダイナミクス研究グループ所長を務める。ビッグデータ研究の世界的第一人者で、フォーブス誌が選ぶ「世界で最も有力な7人のデータサイエンティスト」にも選ばれた。また10以上のビッグデータ関連の会社を創立した起業家でもある。世界経済フォーラムでは、ビッグデータと個人データ保護に関するイニシアチブを主導した。邦訳されている著書に『正直シグナル―非言語コミュニケーションの科学』(みすず書房)がある。

【訳者】小林啓倫(こばやし・あきひと)

株式会社日立コンサルティング 経営コンサルタント。筑波大学大学院卒。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、2003年に米バブソン大学にてMBAを取得、2005年より現職。著書に『ドローン・ビジネスの衝撃』(朝日新聞出版)、訳書に『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(日経BP)、『ビッグデータテクノロジー完全ガイド』(マイナビ)など。

【解説者】矢野和男(やの・かずお)

株式会社日立製作所研究開発グループ 技師長。早稲田大学物理修士卒、工学博士。1984年に日立製作所入社。ウエアラブル技術を用いたビッグデータの収集・分析により世界的に注目を集め、 Erice Prizeなど国際的な賞を多数受賞。本書著者と、本書の中でもとり上がられている人間行動計測の共同研究を行った。東京工業大大学院連携教授。文部科学省情報科学技術委員。IEEEフェロー。著書に『データの見えざる手―ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(草思社)がある。

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