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ビル・ゲイツ絶賛!「生涯の愛読書となる一冊だ」世界をよりよいものにする意志に満ちた全米ベストセラー21世紀の啓蒙――理性、科学、ヒューマニズム、進歩 上・下スティーブン・ピンカー(ハーバード大学教授・認知心理学者)橘明美+坂田雪子訳ビル・ゲイツ絶賛!「生涯の愛読書となる一冊だ」世界をよりよいものにする意志に満ちた全米ベストセラー21世紀の啓蒙――理性、科学、ヒューマニズム、進歩 上・下スティーブン・ピンカー(ハーバード大学教授・認知心理学者)橘明美+坂田雪子訳

知の巨人ピンカーが綴る、事実に基づいた希望の書

「理性」「科学」「ヒューマニズム」「進歩」といった啓蒙の理念を軽視・否定する反啓蒙主義を痛烈に批判。いま人類は、啓蒙の理念の実践のおかげで、かつてないほど良い時代を生きており、将来にも希望が見いだせると論じた全米ベストセラー、『21世紀の啓蒙』(原題:Enightenment Now)の邦訳がついに刊行されました。

ここでは、本書執筆の背景・動機について書かれた「第1部 啓蒙主義とは何か」の冒頭の文章を掲載いたします。

『21世紀の啓蒙』「第1部 啓蒙主義とは何か」より
人が生きる意味と、啓蒙主義の理念

 言語や心、人間の本性について公開講座で話をするようになって数十年になるが、そのあいだにはずいぶん奇妙な質問も受けてきた。「最良の言語は何語ですか?」「貝に意識はあるんですか?」「いつになったら自分の心をインターネットにアップロードできるようになりますか?」「肥満は暴力の一種ですか?」
 だが、これまで講義のあとで答えてきた数々の質問のなかで最も印象に残っているのは、心は脳の活動パターンで決まるという(科学者のあいだではもう常識だが)話をしたときに寄せられたものだ。講義が終わると一人の女子学生が手を挙げて、こう訊いた。
「なぜわたしは生きなければならないんですか?」
 その無邪気な口調から、自殺したいわけでも皮肉をいっているわけでもないのは明らかだった。つまり彼女は、不滅の魂についての伝統的かつ宗教的信念が最新科学によって崩れつつある今、どうやって人生に意味と目的を見出したらいいのかという純粋な好奇心を抱いたわけだ。わたしはこの世に愚かな質問などないという方針で臨んでいるので、このときも思いつくまま話しはじめてみたところ、その学生も、他の受講生も、何よりわたし自身が驚いたことに、そこそこまともな答えになった。わたしがいったのはおおむね次のようなことである──もちろん正確に覚えているわけではないし、“後知恵”による尾ひれもついて、少し違ってしまっていると思うが。

 そういう質問をされたということは、あなたは自分が納得できる「合理的な理由」を探しているということです。それはあなたが、自分にとって大事なものを見つけたり、その正当性を示したりする手段として、「理性」を頼りにしているということです。そして生きるための合理的な理由ならたくさんあります!
「感覚をもつ存在」であるあなたは“わくわくするような人生”を送る力をもっています。たとえば、学んだり考えたりすることで、理性の力そのものを磨くことができます。科学を通して自然界の真相究明に努めることも、芸術と人文科学を通して人間のありようについて探究することもできます。喜びや欲求充足のために自分の力を存分に発揮することもできます。あなたの先祖もそうすることで繁栄し、だからこそあなたも存在しているわけです。あなたはこの世界の自然の美しさや文化の豊かさを愛でることができる。数十億年も続いてきた生命の継承者として、あなたもまた命をつなぐことができる。あなたには「共感」を抱く能力──好ましく思い、愛し、尊敬し、助け、そして思いやりを示す能力──があり、その共感を友人、家族、同僚と分け合うことができます。
 そしてこれらのどれ一つとして、あなただけに特有のものではないことが理性によってわかるのですから、あなたには自分が得られて当然だと思うものを、他の人々に提供する義務があります。あなたは他の「感覚をもつ存在」の生活の質、健康、知識、自由、豊かさ、安全、美、そして平和をより高めることによって、彼らの幸福を育むことができます。歴史を見ればわかるように、他の人々に共感し、自ら創意を凝らして人間のありようを改善しようとするとき、わたしたちは進歩できるのです。そしてあなたも、その進歩の継続に力を貸すことができます。

 人生の意味を説くことは、認知科学の教授職の一般的な職務には含まれない。だからもし、難解な専門知識や心もとない個人的見解だけを頼りにするしかなかったとしたら、彼女の質問に答えるのは傲慢に思えて、避けただろう。だがあのときわたしには、自分が説いているのが実は二世紀以上も前に練り上げられ、しかも今再び、かつてないほど今日的な意味を帯びている信念や価値観であることがわかっていた。すなわち、啓蒙主義の理念である。

啓蒙主義の理念は今こそ擁護を必要としている

「わたしたちは理性と共感によって人類の繁栄を促すことができる」という啓蒙主義の原則は、あまりにも当然で、ありふれた、古くさいものに思えるかもしれない。だが実はそうではないとわたしは気づき、それでこの本を書くことにした。古くさいどころか、理性、科学、ヒューマニズム、進歩といった啓蒙主義の理念は、今かつてないほど強力な擁護を必要としている。わたしたちは啓蒙主義の恩恵に浴していながら、あまりにも慣れすぎてしまった。たとえば、今生まれる子どもたちは八〇年以上の寿命を期待でき、市場には食料品があふれていて、指をちょっと動かすだけで清浄な水が流れ、同じく指をちょっと動かすだけでごみが消え、痛みを伴う感染症も錠剤で治癒し、息子たちを戦場に送り出さずにすみ、娘たちが通りに出ても危険がなく、権力者を批判しても投獄されたり撃たれたりせず、世界の知識と文化がシャツのポケットに入ってしまうといったことを、わたしたちは当たり前だと思っている。
 しかしこれらはすべて人類が可能にしたことであって、当たり前の生得権ではない。読者の皆さんの多くも、戦争、食糧難、病気の蔓延、無知、命の危険などが日常の一部だった時代のことを記憶にとどめているだろうし、恵まれない国の人々なら体験してもいるだろう。しかもわたしたちは、国というものがそうした昔の状態に逆戻りしうることを知っている。つまり啓蒙主義の成果を無視するのは、自ら危険を招くようなものである。
 その女子学生の質問に答えて以来、「啓蒙主義の理念」(ヒューマニズム、開かれた社会、コスモポリタン自由主義、古典的自由主義など、いろいろないわれ方をする)について改めて語るべきではないかと思うことが何度もあった。いや、たんに同じような質問のメールがよく送られてくるからではない(「ピンカー先生、ご著書の内容と科学を重く受けとめ、自分を原子の集合体としか思えなくなっている人に、何かアドバイスをいただけませんか? つまり自分が、利己的な遺伝子からこの時空に飛び出してきた、限られた知性しかもたない機械だとしか思えない人のことです」)。それ以上に、人類の進歩という視点を忘れてしまうと、実存的不安よりもっと悪い状態に陥りかねないと思うからだ。たとえば、自由民主主義や国際協力機関といった、啓蒙思想から発想を得て生まれた諸制度に対して人々が冷笑的な態度をとり(そうした制度が人類の進歩を支えているにもかかわらず)、まるで先祖返りのように大昔の制度に引き戻してしまう恐れがある。
 啓蒙主義の理念は理性が生み出した。しかし人間の本性は二本の糸を縒り合わせたようなもので、その一本である理性は常にもう一本の糸と戦っている。もう一本の糸とはすなわち、部族への忠誠、権力への服従、呪術的思考、不運を何者かのせいにすることなどだ。現に、二〇一〇年代に入ってから、自国が悪の派閥によって地獄さながらのディストピアに引きずり込まれつつあり、それに抵抗できるのは「再び偉大な国に」引き戻してくれる強い指導者だけだと考える政治運動が高まりを見せている。しかもその運動は、対抗勢力のリーダーたちがよく口にする話に煽られて勢いづいてきた。つまり、現代の諸制度は破綻したとか、生活のあらゆる面で危機が深まっているといった話である。
 結局のところ「今ある制度を壊せば世界は良くなる」という点では両陣営が声を揃えているわけで、これはなんとも恐ろしい事態である。人類の長い進歩のなかで、その流れに反する諸問題が起こったときに、それらを解決することでますます進歩を重ねられると考えるような前向きなビジョンをもつ人々の声は、今は小さくなってしまっていてあまり聞こえない。

啓蒙主義の理念は繰り返し語られねばならない

 これでもまだ啓蒙主義の理念に強力な擁護が必要だと思えないなら、イスラム過激派について研究しているシラーズ・マハーの言葉に耳を傾けてもらいたい。「西洋は自分たちの文明に対する評価が低すぎる。古典的自由主義をはっきりと主張しない。これらの価値に自信がないのだ。何やら居心地悪く感じている」。これに対してIS(イスラム国)のほうはというと、自分たちの価値に自信満々で、「ISが支持しているものが何なのかを正確に理解している」。それは間違いなく、「信じがたいほど魅惑的なもの(incredibly seductive)であり、その頭文字もまたISなのだ」。このような鋭い指摘は、以前、ジハーディスト・グループの「ヒズブ・タフリール」の地区リーダーだったことがあるマハーならではのものだ。
 一九六〇年、自由主義の理想がその最大の試練であった第二次世界大戦を耐えしのいでからさほど経たないころ、経済学者のフリードリヒ・ハイエク〔反ナチ、反共産主義の自由主義思想家でもあった〕は、自由主義についての考えをこう述べた。「古くからの真実を人々の心(men's minds)にとどめておきたいなら、世代ごとにその言語と概念で語り直さなければならない」(men's minds〔「男たちの心」の意味にもなる〕という現在は不適切とされる表現そのものが、図らずも彼の「世代ごとにその言語と概念で……」という主張の正しさを証明している点に注意)。「かつては最もふさわしい表現だったものも、やがて使い古されて摩耗し、明確な意味を伝えられなくなってしまう。根底にある考えは古びていないかもしれないのに、言葉のほうはそうはいかず、現在にもかかわりのある問題を語るときでさえ、もはや同じ信念を伝えはしない」
 本書は、啓蒙主義の理念を二一世紀の言語と概念で語り直そうとする試みである。まず、現代科学が教えてくれる人間のありようについて、これを理解する枠組み──わたしたちが何者で、どこから来て、どういう課題を抱えていて、どうすれば対処できるのか──を提示する。その後は、つまりこの本の大部分は、啓蒙主義の理念を二一世紀ならではのやり方で、つまりデータを使って擁護することに充てる。
 こうして改めて証拠を挙げて啓蒙主義という事業の成果を見てみると、啓蒙主義の理念がたんなる甘い希望ではなかったことがよくわかる。啓蒙主義という事業は間違いなくわたしたちの役に立ってきた。だが、「偉大な物語はめったに語られない」ということなのか、啓蒙主義の勝利は語られてこなかった。そのせいで、勝利を可能にした理性、科学、ヒューマニズムといった理念も正しく評価されていない。それも、何らかの合意された過小評価がなされているというのではなく、もっとひどいことに、今日の知識人はこれらの理念を無視し、あるいは疑いの目を向け、時には軽蔑さえする。だが、わたしがこれから提示するような適切な評価がなされれば、啓蒙主義の理念は実のところ感動的であり、刺激的であり、崇高でさえあり、つまり生きる理由と呼ぶにふさわしいものだとわかるはずである。

著者紹介
スティーブン・ピンカー
Steven Pinker

ハーバード大学心理学教授。認知科学者、実験心理学者として視覚認知、心理言語学、人間関係について研究している。進化心理学の第一人者。主著に『言語を生みだす本能』、『心の仕組み』、『人間の本性を考える』、『思考する言語』(以上NHKブックス)、『暴力の人類史』(青土社)、『良い文章とは(The Sense of Style)』(未邦訳)があり、最新の『21世紀の啓蒙』が10冊目になる。研究、教育ならびに著書で数々の受賞歴があり、2004年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に、2005年にはフォーリンポリシー誌の「知識人トップ100人」に選ばれた。米国科学アカデミー会員。『アメリカン・ヘリテージ英語辞典』の語法諮問委員会議長も務めている。

ハーバード大学心理学教授。認知科学者、実験心理学者として視覚認知、心理言語学、人間関係について研究している。進化心理学の第一人者。主著に『言語を生みだす本能』、『心の仕組み』、『人間の本性を考える』、『思考する言語』(以上NHKブックス)、『暴力の人類史』(青土社)、『良い文章とは(The Sense of Style)』(未邦訳)があり、最新の『21世紀の啓蒙』が10冊目になる。研究、教育ならびに著書で数々の受賞歴があり、2004年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に、2005年にはフォーリンポリシー誌の「知識人トップ100人」に選ばれた。米国科学アカデミー会員。『アメリカン・ヘリテージ英語辞典』の語法諮問委員会議長も務めている。

『21世紀の啓蒙』目次

◎上巻

序文

第一部 啓蒙主義とは何か

人が生きる意味と、啓蒙主義の理念
啓蒙主義の理念は今こそ擁護を必要としている
啓蒙主義の理念は繰り返し語られねばならない

第一章 啓蒙のモットー「知る勇気をもて」

啓蒙とは何か。啓蒙主義とは何か
「理性」とは本来、交渉や駆け引きとは無縁のもの
「科学」による無知と迷信からの脱却
感覚をもつ者への共感が「ヒューマニズム」を支持する
啓蒙主義の「進歩」の理念とは何か
いかに富は創造され、「繁栄」が実現するか
「平和」は実現不可能なものではない

第二章 人間を理解する鍵「エントロピー」「進化」「情報」

人間を理解する第一の鍵「エントロピー」
人間を理解する第二の鍵「進化」
人間を理解する第三の鍵「情報」
三つの鍵で人類は呪術的世界観を葬った
認知力と規範・制度が、人間の不完全さを補う

第三章 西洋を二分する反啓蒙主義

西洋生まれの啓蒙主義を批判したのも西洋
現在もなお続くロマン主義による抵抗
所属する集合体の栄光を優先する人々
進歩あるいは平和を批判する衰退主義
科学批判による反啓蒙主義

第二部 進歩
第四章 世にはびこる進歩恐怖症

世界が良くなっていることを認めない人々
ニュースと認知バイアスが誤った悲観的世界観を生む
世界を正しく認識するには「数えること」が大事
前著『暴力の人類史』への反論の典型
過去の進歩の実績を認識することはなぜ重要か
悪いことを想像するほうが簡単なのはなぜか
知識人とメディアが過度な悲観論に傾く理由
事実、世界は目を瞠る進歩を遂げてきた

第五章 寿命は大きく延びている

平均寿命は世界的に延びている
乳幼児死亡率と妊産婦死亡率は著しく低下
長生きする人も増加、健康寿命も延びている
寿命が延びることに文句をつける人たち

第六章 健康の改善と医学の進歩

医学の進歩が一つずつ問題を解決してきた
疾病制圧の功労者たちを忘れてはならない
今も感染症根絶の努力が続けられている

第七章 人口が増えても食糧事情は改善

飢餓は長いあいだ当たり前の出来事だった
急激な人口増加でも飢餓率は減少した
科学技術の進歩がマルサス人口論を無効化した
農業の技術革新は不当に攻撃されている
二〇世紀の飢餓の最大要因は共産主義と政府の無策

第八章 富が増大し貧困は減少した

世界総生産は二〇〇年でほぼ一〇〇倍に
実は総生産の増大以上に我々は豊かになった
貧困からの大脱出を可能にした三大イノベーション
「極度の貧困」にある人の比率も絶対数も減少
「毛沢東の死」が象徴する三つの貧困削減要因
グローバル化が貧しかった国を豊かにした
科学技術の発展がより良い生活をより安く実現

第九章 不平等は本当の問題ではない

不平等は過度に注目され問題視されている
所得格差は幸福を左右する基本要素ではない
「不平等が悪を生む」という考えは間違っている
不平等と不公正を混同してはならない
経済発展に伴い格差はどう推移するか
二〇世紀以降の格差縮小の最大要因は戦争
資本主義経済の発展とともに社会移転は増えた
先進国の空洞化した中間層とエレファントカーブ
エレファントカーブは事態を過大に見せている
先進国の下位層・下位中間層も生活は向上した
「中間層の空洞化」という誤解が生じる理由
実はアメリカの貧困は撲滅されつつある
優先課題は経済成長、次はベーシック・インカム
所得格差は人類の後退の証拠ではない

第一〇章 環境問題は解決できる問題だ

環境問題の事実を科学的に認めることが必要
半宗教的イデオロギー「グリーニズム」の誤り
グリーニズムの黙示録的予言はすべてはずれた
さまざまな面で地球環境は改善されている
生活や生産活動の高密度化・脱物質化が重要
間違いなく憂慮すべき事態にある「気候変動」
気候変動予想に人々はどう反応してきたか
自己犠牲の精神ではこの問題が解決しない理由
解決のため途上国に犠牲を強いるのは間違い
世界の「脱炭素化」はこれまでも進んできた
「カーボンプライシング」が脱炭素化の第一の鍵
脱炭素化の第二の鍵は原子力発電
脱炭素化はエネルギー技術の進歩にかかっている
大気中の二酸化炭素を減少させるにはどうするか
「気候工学」の手法も条件付きでは使っていい
悲観的にならず解決する方法を模索し実行する

第一一章 世界はさらに平和になった

『暴力の人類史』刊行以降、暴力は増加したか
長期的な戦死率の減少傾向は続いている
多くの内戦が終結、難民数も虐殺規模も縮小
国際的商取引と国益重視が戦争を遠ざけた
戦争を違法とする国際合意の功績は大きい
ロマン主義的軍国主義の価値観から脱却
かつての軍国主義を勢いづけた反啓蒙主義

第一二章 世界はいかにして安全になったか

事件・事故を低減する努力は軽視されがち
「国家の統治」「商取引」は殺人を減少させる
「根本原因の解決なしに暴力減少は無理」の噓
「世界の殺人発生率を今後三〇年で半減」は可能
殺人発生率を半減させるための方法
自動車事故による死亡率は六〇年で六分の一に
歩行者の死亡事故も大きく減少してきた
火事・転落・溺死の減少率も非常に大きい
薬物過剰摂取事故による死者は増えている
かつて「進歩の代償」とされた労働災害も減少
地震・噴火・台風などの被害緩和策も効果発揮
事故も殺人も減らせる。その減少にもっと感謝を

第一三章 テロリズムへの過剰反応

テロの危険は非常に過大評価されている
テロによる死者の大半は内戦地域に集中している
テロの目的は注目を集めること。実際は無力だ
テロへの恐怖は、世界が安全である証しでもある

第一四章 民主化を進歩といえる理由

民主化を進歩の証しと見なせるのはなぜか
「世界の民主化は後退している」という悲観論の噓
選挙こそ民主主義の本質、というわけでもない
民主主義とは国民が非暴力的に政権を替えられること
国家による人権侵害は徐々に減っている
国家による究極の暴力行使、死刑の減少
アメリカにおいても死刑は消滅前夜にある

第一五章 偏見・差別の減少と平等の権利

平等の権利獲得の輝かしい歴史は忘れられがち
ネット検索の履歴データに表れた偏見減少の趨勢
アメリカのヘイトクライムは減少傾向にある
西洋以外の国々でも偏見と差別は減っている
現代化が進むと「解放的な価値観」が根づく
「先進国の価値観は保守化している」の噓
先進国以外の国々も価値観は解放的になった
アメリカでは子どもの虐待やいじめは減少
世界の児童労働の比率は減少、教育機会は拡大

◎下巻
第一六章 知識を得て人間は賢くなっている

教育は社会を豊かにし、平和で民主的にする
教育は世界中に広まりつつあり、男女格差も縮小
世界的なIQの上昇「フリン効果」の原因は何か
フリン効果は世界を豊かにした要因の一つ
「人間開発指数」の改善は進歩の実在を証明する

第一七章 生活の質と選択の自由

好きなものを手に入れられるのは良いことだ
労働に費やさなければならない時間が減少
家事や生活維持のためにかかる時間も減少
家族の時間は増え、遠くの人との交流は便利に
食べ物が国際的になり食事の選択肢が増加
文化に触れ学ぶことが簡単・便利・安価に

第一八章 幸福感が豊かさに比例しない理由

わたしたちは豊かになっても幸福を感じないか
客観的な意味での幸福を形づくるものは何か
主観的な幸福はどのように測られるか
人々の幸福感は本当に向上していないのか
裕福でも幸福感が高くない国アメリカの実態
現代人はより孤独になっているというのは誤り
自殺率と不幸度の関係についても誤解が多い
鬱病と診断される人が増えているのはなぜか
本当に鬱病に苦しむ人は増えているのか
自由の獲得が幸福感の伸びない理由の一つ
神や権威から離れ自らの責任で生きる不安

第一九章 存亡に関わる脅威を考える

科学者が提示する数々の「脅威」は本物か
むやみに脅威を語ることが危機をつくり出す
低確率事象のリスク評価は過大になりがち
二〇〇〇年問題に見る科学者のバイアス
科学技術は人間を災害から守っている
人工知能は進化しても人間を滅ぼさない
AIの暴走も人類への脅威とならない
悪意ある個人が世界を滅ぼせるようになるか
世界を滅ぼせるテロリストは存在しえない
バイオテロは非常に困難で効率も悪い
核の脅威は本物だが過大に喧伝されている
核戦争を防いできたのは何かを考えるべき
核は究極兵器でも究極の抑止力でもない
世界の核兵器は近年減少しつづけている
まずは核の運用法を安全にする必要がある

第二〇章 進歩は続くと期待できる

この二世紀半のあいだにもたらされた進歩
進歩は自動的にもたらされるものではない
進歩の継続を信じる合理的理由は歴史に
経済成長の停滞は進歩の継続を妨げるか
将来の進歩をもたらしうる技術の数々
ポピュリズムは進歩をはばむ脅威となるか
ポピュリズムの支持層は「文化競争の敗者」
ポピュリズムは老人の運動。衰退の可能性大
進歩の継続を支持し、前向きに取り組む

第三部 理性、科学、ヒューマニズム
第二一章 理性を失わずに議論する方法

理性や客観性を否定したら議論は不可能になる
人間の理性を使う能力は進化によって磨かれてきた
不合理な主張を信じるのは無知だからではない
人は評判を気にして集団内の主流意見に同調する
知識が深まるほどに意見が二極化することさえある
知能が高くても偏見があると誤った結論に飛びつく
左派の右派への、右派の左派への偏見を検証
右も左もイデオロギーのせいで人類に貢献し損ねた
右・左・中道で選ぶのではなく、合理性で選択する
専門家を予測の正確さで評価すると多くが落第
驚くべき精度で予測を当てる「超予測者」の特徴
政治の二極化と大学の左傾化は確かに進んでいる
政治と大学の二極化・偏向は何をもたらしたか
「ファクトチェック」が理性的な人々に力を与える
長期的に見れば理性は今まで真実を広めてきた
認知バイアスに関する教育で「脱バイアス」は可能
党派性の克服には理性的議論のルールも必要
人間はたいていの状況下では十分に理性的
物事が「政治問題化」すると人は理性を失う
理性的な政治の実現をあきらめてはならない

第二二章 科学軽視の横行

科学の偉業は否定しようもなく大きく普遍的だ
アメリカの政治家による科学軽視の事例
多くの知識人たちも科学を軽視・敵視してきた
否定論者はどのように科学を非難してきたか
科学支持者が広めたいと考える二つの理想
「科学は領分を守るべし」という論の誤り
科学や科学論の誤用・誤解・曲解が横行
科学的人種主義の罪を科学は負うべきか
科学の悪者扱いが大学でまかり通っている
バイアスを正すには科学的知識が不可欠
科学と人文学の協力は双方の得になる
知の統合を妨げる「第二の文化」の警察官

第二三章 ヒューマニズムを改めて擁護する

ヒューマニズムとは人類の繁栄を最大化すること
道徳の非宗教的基盤は「公平性」だけでは不足
道徳の基盤となる人間の身体・理性・共感
功利主義的道徳は必ずしも悪いものではない
ヒューマニズムの功利主義的主張がもつ利点
ヒューマニズムを否定したがる二つの勢力
有神論的道徳からのヒューマニズム批判の中身
「基礎物理定数」は神の存在の証拠?
「意識のハードプロブレム」は神の存在の証拠?
有神論的道徳が抱える第二の欠陥
信仰擁護無神論者「信仰を否定するな」
神がいなくても人が生きる意味は見出せる
「宗教は巻き返している」という見解は誤り
宗教復興と見誤らせる「出生率」「投票率」
イスラム諸国の停滞の原因は明らかに宗教
イスラム世界でもヒューマニズム革命は進む
ヒューマニズムの敵を育てたニーチェの思想
ニーチェに感化され独裁者を支持した知識人たち
ニーチェからトランプに至る二つのイデオロギー
トランピズムの思想基盤は論理的に破綻している
啓蒙主義の理念はつねに擁護を必要としている

21世紀の啓蒙 上巻
21世紀の啓蒙 下巻