www.soshisha.com
話題の本
北朝鮮を知りすぎた医者」、近況を語る 2005年6月13日
 1999年からNGO〈カップ・アナムーア〉の一員として北朝鮮で活動していたドイツ人医師、ノルベルト・フォラツェン氏。01年、氏は、北朝鮮の真の姿を世界に伝えようとしたがために北を追われた。その経緯は、持ち出した日記、写真、ビデオを基にした『北朝鮮を知りすぎた医者』に詳しく描かれている。
 その後ソウルで活動をつづけてきた氏が、なぜか韓国当局から国外退去命令を突きつけられているという。いま一体何が起こっているのか。緊急来日した フォラツェン氏に編集部が話を聞いた。

ノルベルト・フォラツェン氏
ノルベルト・フォラツェン氏

──ついに韓国から国外退去命令が出ましたが。

 昨年の十一月、下関へ行き、韓国に再入国する際に十時間ほど釜山で拘留されました。そのとき当局から政治活動に参加しないようにという通告を受けた。今でもそのコピーをもっていますが。その後、私は大津波で被災した人々の救援活動のためにバンダ・アチェに行き、そのあと韓国に戻って政治活動、つまり人権活動をしていた。韓国政府はそれら一つ一つを詳細に記録していたんですね。私のスピーチの内容についても克明に記録していた。
 再度拘留されないために、私はビザが切れたあとも、わざとソウルに滞在を続けました。じつは韓国とドイツのあいだに新しい取り決めができて、観光ビザで決められている三カ月以上滞在できることになっていたんです。ドイツ人に限ってのことですが、韓国で仕事をしていることが証明できれば、三カ月という期間よりも長く滞在することができるようになった。今年の一月から施行された新しい法律です。
 私は五月四日に移民局に呼ばれ、不法滞在ということで罰金二十万ウォンを払うよう命じられた。そして国外退去せよと。担当官は笑いながら、「『政治活動目的』ということでビザを申請し直せば戻ってこられる。ただし外国人は政治活動に参加できないことになっているがね」と言いました。
 私は「これで国外に出るが、しかし、あなた方は韓独間の取り決めに違反しているではないか。そのことを外国メディアに訴えることだってできる」と言いました。結局、私は彼らの命令に従って六月三日に国外退去しましたが、私のドイツ国民としての権利が韓国において侵害されたということです。韓国がいかに私を追放したかったか、そのためには法律違反をすることすら辞さなかったわけです。私は今回の退去命令やその他の重要な書類を大切に保管しています。

──最初に北朝鮮から韓国に入ったときと今とでは、対応に違いはあるのでしょうか。

 二〇〇一年にピョンヤンから初めてソウルに来たとき、たくさんのジャーナリストに会いました。北朝鮮でどんなことが行われているかを世界に知らせるのが目的だった。ジャーナリストや政治家は関心をもって、熱心に私の話に耳を傾けてくれるかと思ったのだが、実際は違っていたので、がっかりしました。ピョンヤンにいたときと同じゃないかと思った。彼らは気が進まないという態度で、あるいは私の話に激しく反発する姿勢をとったんです。私に口を開かないでほしいとさえ思っていたようです。そこで私がまず考えたのは、韓国政府のなかには北朝鮮のスパイがいるのかもしれないということ。
 西ドイツのギヨーム、彼はあとで東ドイツの諜報部員とわかったんですが、ブラント首相に影響を与えた人物です。当時人々は社会民主党がなぜ東ドイツに友好的なのか、なぜ多額の資金援助を行ったりしているのか不思議に思っていました。韓国でもこれと同じようなことが行われているのかと思ったわけです。しかし実際には、韓国政府が金正日から直接影響を受けているのだと確信するようになりました。韓国で私は殴られ、拘束され、追っかけられ、閉じ込められ、まったくもってひどい扱いを受けました。ピョンヤンよりひどかった。人権活動家として私は北の体制が変わることを願っているが、その前に韓国の体制が変わらなければならないと感じています。
『タイム』誌のドナルド・マッキンタイヤー記者が、私は複数の国から国外退去を命じられた点でギネスブックものではないかと言ったんですが、北と南の両方から追放された最初の人間となるのは確実でしょうね。これが如実に物語っているのは、北と南の政策は大変似ているということ。世界の誰もが、いったい韓国はどうなってしまっているのかと不思議に思っているでしょう。なぜ南はこうも北と緊密な同盟関係にあるのか。私は両国が同盟関係を結ぼうとしているその政策そのものに反対するつもりは毛頭ありません。太陽政策、開放政策、平和を望むこと、それはもちろん歓迎すべきこと。私だって、太陽政策を自ら実行したんですからね。自分の皮膚を大火傷を負った北朝鮮の労働者に提供し、それで友好メダルをもらった。でも私は陰謀や秘密の手段を使うのは嫌です。
 盧武鉉大統領は韓国のメディア、KBSをはじめとするテレビに、北朝鮮での公開処刑シーンを放映しないよう徹底させたという。BBCやCNNを始めとする世界のメディアで映像が流されているので、まったくもって馬鹿馬鹿しいことなんですけれどね。

──盧武鉉政権になってよりひどくなりましたか。

 悪くなる一方です。韓国の政治家や外国のジャーナリストと話したところ、悪くなったのは盧武鉉大統領のせいではないとのことです。彼は単なる操り人形であって、周囲の人々に影響を受けているという。訪米の際に大統領は北の核について触れていたが、むしろ核を自慢している様子でした。韓国が米朝関係のバランサーの役割を担っていると発言しています。なんて馬鹿馬鹿しい。チェンバレンがアメリカとヒトラーのバランスを保つ役割を担おうとしたのが愚かだったように、愚かしいことです。

──フォラツェンさんは常日頃、どこかの組織に属すことなく「独立独歩」で活動するとおっしゃっていますね。

 ドイツにいた頃、夫婦の関係でも私は独立して行動していましたよ。妻はビジネスをやっていて裕福でしたが、私は医療制度の改善という自分の活動をするために、彼女からお金を受け取ることはなかった。妻から独立していたかったから。そうでなければ医者として自分の好きなようにやることはできなかったと思う。私はお金というものに興味がなく、患者のことだけ考えていた。そういう独立の姿勢が身に付いているんでしょうね。私のバックに何らかの組織があるんじゃないかとジャーナリストが詮索するときは、預金通帳を見せる。草思社からの印税、アドバンスしか入金がないことを見せるんです。たしかに、やりくりが厳しくて、ひもじい思いをするときもありますが。

[1] [2] [3] NEXT