草思社

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なぜ東京はいつまでも若々しいのか?

東京 上がる街・下がる街
―― 鉄道・道路から読み解く巨大都市の未来
川辺謙一 著
「東京 上がる街・下がる街」書影

◆東京は「弱点」を克服すればまだまだ成長し続ける!

 実は東京は、世界の都市と比較すると、交通が未発達と言えます。電車でどこへでも行ける便利な都市という印象が強いので、意外に思われるかもしれません。しかし、その電車も、世界にまれなほど混雑がひどいこと、鉄道事業者がたくさんあり乗り換えが頻繁に必要なうえ、わかりづらいことなど、欠点は少なくありません。さらに道路は、渋滞がとても多いうえ、曲がりくねっていてわかりづらく、しかも計画の6割ほどしか完成していません。いつ完成するか、だれにもわからないという状態です。

 しかし、これは決して悪いことばかりではありません。この「弱点」は克服可能で、つまりそれは、東京が今後成長する余地を残しているということでもあるからです。

 交通改善による成長が今も実際に起きていることは、東京圏の「住みたい街ランキング」や交通各社の利用者伸び率のデータにも端的に表れています。詳しくは本書の内容に譲りますが、近年「上がる街」つまり人やモノが集まるようになった人気の街は、電車の直通運転や圏央道・外環道の延伸などで、一気に利便性が増したところがその多くを占めています。交通の改善は街の機能、ひいては東京の機能向上に大きな影響を与えているのです。

 本書は、交通の発達が東京および東京圏にある街をどう変えるか、そして世界有数の巨大都市・東京圏全体をどう変えるか、渋谷や虎ノ門、武蔵小杉、豊洲、八潮など、具体的な場所の実例や各種データを交えて考えるもの。JR東日本/東京メトロ/首都高のリーダーへのインタビューも行い、東京の交通の展望や問題点について、統計や公式資料になかなか表れない、貴重な当事者の話を聞いています。

◆東京は「弱点」を克服すればまだまだ成長し続ける!

 交通改善で「上がる街」が次々生まれるということは、以前「下がる街」だった場所も、ちょっとした交通の変化で復権する可能性があるということです。古びた工場街が一転して最新のオフィスビルやタワーマンションが建ち並ぶ街になるようなことがたびたび生じることで、東京は変化へ柔軟に対応する力を保っていると言えるでしょう。いつまでも東京が若々しい都市である理由もここにあります。

 東京は今、人口減少前夜にあり、今後は郊外から衰退が始まっていくことは間違いありません。しかしその一方で、交通の発達・改善により、次々と「上がる街」が登場し続け、その地元を活性化するだけでなく、東京全体を成長させることもまた、間違いないでしょう。東京の衰退が予測される今こそ、東京に残された大きな成長余地である「交通」にフォーカスした本書は、必読の一冊です。

(担当/久保田)

著者紹介

川辺謙一(かわべ・けんいち)
交通技術ライター。1970年三重県生まれ。東北大学大学院工学研究科修了後、メーカー勤務を経て独立。高度化した技術を一般向けに翻訳・紹介している。著書は『東京道路奇景』『日本の鉄道は世界で戦えるか』(以上、草思社)、『オリンピックと東京改造』(光文社)、『東京総合指令室』(交通新聞社)、『図解・燃料電池自動車のメカニズム』『図解・首都高速の科学』『図解・新幹線運行のメカニズム』『図解・地下鉄の科学』(以上、講談社)など多数。本書では図版も担当。
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