草思社

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オックスフォードの心理学者による、感覚刺激を操作して生産性を高める方法

センスハック
――生産性をあげる究極の多感覚メソッド
チャールズ・スペンス著 坂口佳世子訳

 スマートフォンやPCなどにより、あまりにも多くの刺激に囲まれる現代社会。その一方、触れ合いに飢えている人が増えるなど、私達の感覚にかかる負荷はバランスを失っています。本書は、オックスフォードの心理学者がおくる、自分たちの環境の感覚を見直し、最適な刺激が得られる空間を構築する=センスハックすることで、「より生産性が高く」、「よりストレスレス」で、「より幸福な人生」を実現する、画期的な感覚改善の書です。

・アパレル店舗併設のカフェの本当の目的は?

 住宅、オフィス、店舗、家電、車、恋愛、スポーツ、病院…センスハックできるシチュエーションはあらゆる場面にあります。いくつかの例をここで紹介します。
 まず、基本ともいえる家についての章では、いかに嗅覚、色彩、光、植栽といった要素が、快適な生活にとって重要なものであるかをデモンストレーションします。
 センスハックの王様とされる車では、ドアの重さ(重い=安全性との関連)、新車の匂い(インテリア材そのものではない合成された香り)、エンジン音(本当は車内に聞こえないほど静かになっているが、快適に感じるようにあえて合成音を車内に流している)など、無意識の感覚に訴えるいくつもの工夫が凝らされています。
 ほかにも、ユニクロなどカフェが併設されているアパレルを見てみると、これは一見同伴者の買い物が終わるまでの暇つぶしのようにみえますが、実は人間は視覚と嗅覚というように、いくつかの感覚を組み合わせると刺激が強化されるということが判明しており、実際には購買意欲を上げるためにいい香りを漂わせるという戦略なのです。

・パンデミックの時代に、身の回りの環境改善を考える

 そのほかにも、マッチングアプリのプロフィール写真には楽器を持った写真を載せるべき(楽器が弾ける=器用さは生存に有利であるという判断のバイアスがある)、アップルのディスプレイ角度は最適角度からずれている(角度を直したくなることで近づくよう仕向けている)、丸いテーブルのほうが会議がまとまりやすいなど、進化心理学や認知科学的な裏付けによる、多種多様なセンスハックが本書には満載です。人間の進化や認識に基づいたこれらの感覚刺激のデザインを理解することは、パンデミックにより身の回りの空間の大事さに改めて向き合わされている私たちにとって、劇的に環境を改善できるヒントをもたらしてくれるはずです。建築家、カーデザイナー、スポーツマン、マーケターほか、すべての人に読んでいただきたい1冊です。

(担当/吉田)

著者紹介

チャールズ・スペンス
オックスフォード大学教授。専門は実験心理学。トヨタ、ユニリーバ、ペプシコ、ネスレなど多くの多国籍企業で、多感覚デザイン、パッケージ、ブランディングなどのコンサルティング経験がある。著書に『「おいしさ」の錯覚 最新科学でわかった、美味の真実』(KADOKAWA)がある。

訳者紹介

坂口佳世子(さかぐち・かよこ)
筑波大学大学院博士課程単位取得退学。宮崎大学名誉教授。アメリカ文化論、現代アメリカ文学専攻。著書『〈法〉と〈生〉から見るアメリカ文学』(共著、悠書館、2017年)、『グローバル化の中のポストコロニアリズム』(共著、風間書房、2013年)、『ソール・ベロー研究――ベローの文学とアメリカ社会』(単著、成美堂、2003年)他。
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