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人類との関係が年々「深化」する、菌類のスーパースター

酵母 文明を発酵させる菌の話
ニコラス・マネー著 田沢恭子訳

 人類はいかに酵母と出会い、お互いに依存するようになったのか。この微生物が、どのように人類の歴史を導いてきたのか。そして21世紀に入り、両者の関係がどれだけより発展しているのか。本書は、そんな酵母と人類の深い仲を語り尽くします。

 人類と酵母の出会いは、厳密には人類誕生以前に遡ります。何を言っているのかわからないと思うかもしれませんが、これはどういうことかというと、人類がアルコールを分解できる遺伝子を持っているのは、人類の祖先である猿たちが、アルコールを摂取していたことと関係があるのです。

 酵母はどこにでもいるので、最初のアルコール製造、パン製造は偶然の産物であったでしょう。ワイン酵母が誕生したのは1万年ほど前とされていますが、これは奇しくも多くの動物の家畜化と同じタイミングです。

 パン製造は、その工業化を極めて洗練させていきますが、同時に酵母そのものを食料にすることも発明されます。その高い栄養価に注目し、ナチスが酵母食品の開発を計画したこともあるほどなのです。 酵母はどこにでもいる一方で、その存在が科学的に発見されるのは19世紀と意外にも遅かったのですが、以降の研究はめざましく、人類が真核生物で全ゲノムを初めて明らかにしたのは酵母であり、遺伝子研究に大きな貢献を果たしているのです。

 そして、今世紀に入ってからは、バイオエタノール燃料の生産者として存在感を増しているほか、糖尿病やマラリアなどの重要な病気の薬の生産にも役立っています。また、大気中に酵母があると、水分が集まり雨が降りやすくなることから、気候変動制御の面でも注目されるなど、SDGsの時代において、人類との関係がより「深化」しているのです。

 本書を読むと、酵母が想像以上に私たちの文明の多くを支えてくれている重要な存在であることがおわかりいただけるかと思います。身近すぎるからこそ普段意識しないこの偉大な菌について、少しでも興味を持っていただければ幸いです。

<目次より>

第1章 はじめに 酵母入門(Yeasty Basics)
第2章 エデンの酵母(Yeast of Eden) 飲み物
第3章 生地はまた膨らむ(The Dough Also Rises) 食べ物
第4章 フランケン酵母(Frankenyeast) 細胞
第5章 大草原の小さな酵母(The Little Yeast on the Prairie) バイオテクノロジー
第6章 荒野の酵母(Yeasts of the Wild) 酵母の多様性
第7章 怒りの酵母(Yeasts of Wrath) 健康と病気

(担当/吉田)

著者紹介

ニコラス・マネー
イギリス生まれ、エクセター大学で菌類学を学ぶ。マイアミ大学生物学教授。生物学に関する多くの著作がある。邦訳書に『生物界をつくった微生物』、『ふしぎな生きものカビ・キノコ―菌学入門』、『キノコと人間―医薬・幻覚・毒キノコ』(以上、築地書館)、『利己的なサル―人間の本性と滅亡への道』(さくら舎)などがある。

訳者紹介

田沢恭子(たざわ・きょうこ)
翻訳家。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科英文学専攻修士課程修了。翻訳書に『アルゴリズム思考術』(早川書房)、『戦争がつくった現代の食卓』、『バイオハッキング』(以上、白揚社)など。
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