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竣工から50年。カプセルタワーという名建築の終局

中銀カプセルタワービル 最後の記録
中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト編

 1972年に竣工した、日本建築史に残る名作、中銀カプセルタワービル。建物が新陳代謝し、時代ごとに成長するという革新的な「メタボリズム」の概念に基づいて黒川紀章が設計したこの建物は、竣工50年という節目の2022年、ついに解体されます。

 本書は、 写真400枚以上、114カプセルを収録する 、最大にして最後の記録集です。この解体にいたるまで撮影できなかった場所も多く記載されているほか、実測図面をみると、いかに住み手が自由にカプセルを改造していたかが詳細に見て取れます。その他にも、2本の論考、黒川紀章の子息である黒川未来夫氏とメタボリズム研究の大家である八束はじめ氏の対談も収録した、決定版と言える内容です。論考では、芝浦工業大学の松下希和氏が、カプセルタワーの竣工から50年について語り、工学院大学の鈴木敏彦氏は、大胆にも取り外したカプセルの活用について、建築的な提案を行っています。対談では、カプセルタワーについて総括しつつ、黒川紀章に直接接した両氏ならではのお話や、軽井沢にあるカプセルタワーの半身ともいえる「カプセルハウスK」の今後についても触れられています。

 本書をご覧いただければ、この建物が、斬新なコンセプトゆえに、竣工50年後に奇しくも今日的な空間になっていることがおわかりいただけると思います。同時に、世界的にも評価されるこの建築を、今の日本では残すことができないという現実に向き合わされる思いを抱かされる方もいるかもしれません。しかし、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトはただ解体されるのを受け入れているわけではありません。状態のいいカプセルを取り外し、美術館や滞在施設として活用する今後のビジョンを検討しています。歴史的な建築の保存制度が十分ではない日本において、「メタボリズム」の定義を読み替えて、新しいカプセルの活用を見出そうとしているのです。この名建築の解体は、単に1つの建築の終わりではなく、日本の建築保存の厳しい現状を露呈しつつ、そこで保存に立ち向かう人がいかに奮闘しているのかという、もっと大きな課題を浮き彫りにしているのです。

 最後に、この建物をありのままの姿で残すべく最後まで奔走し、解体決定後も、取り外される予定のカプセルの今後の活用について模索し続けている中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトの代表の言葉をおくります。

「解体はされますが2022 年は中銀カプセルタワービル竣工50周年の記念すべき年です。本書の出版を筆頭に、企業や団体の協力により様々なイベント等が展開されます。また実物のカプセルとみんなの思いは、日本はもちろん海外にも引き継がれていきます。これがきっかけで新たなクリエイターやアーティストが誕生し、メタボリズムの思想を引き継いだ「シン・カプセル建築」が生まれる、そんなワクワクする未来が訪れることを願っています。 」

(担当/吉田)

著者紹介

中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
代表・前田達之。1967年、東京生まれ。中銀カプセルタワービルの保存と再生を目的に、2014年にオーナーや住人とプロジェクトを結成。見学会の開催や取材・撮影等のサポートを行う。編著書に『中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟』(2015年、青月社)『中銀カプセルスタイル 20人の物語で見る誰も知らないカプセルタワー』(2020 年、草思社)などがある。
プロデューサー・菅井隆史。1992年、東京生まれ横浜育ち。オフィスの空間デザイナーとして勤務しながら、プロジェクトに参画。編著書に『黒川紀章のメタボリズム思想と中銀カプセルタワービルの現状』(2014年、日本建築学会学術講演会)『中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟』(2015 年、青月社)がある。
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