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濃厚接触を生業にする女性たちの「コロナ前」「コロナ後」を濃密に描く出色のルポルタージュ!

コロナと風俗嬢
八木澤高明 著

 新型コロナウイルスは日本社会に多大な惨禍をもたらしましたが、とりわけ痛ましいのは女性の自殺が急増していることです。長引く「自粛」によって、飲食やサービス業など女性の比率が高い非正規雇用の仕事が失われたことが原因とされています。では、かねてより追いつめられた女性が当座の収入を得る最後の場所とされてきた風俗の世界は、このコロナ禍によってどのような状況になっているのでしょうか。本書は多年にわたって日本の色街を歩いてきたノンフィクションライターが、風俗の世界で働くさまざまな立場の人々に取材した迫真のルポルタージュです。

 2020年~21年にかけて、著者は吉原、鶯谷、ススキノ、伊香保温泉、梅田、飛田新地、和歌山・天王新地……といった場所を訪ね歩き、さまざまな年齢・立場の女性たちに話を聞きました。そして、各地で出会ったのは、思いのほかしたたかに危機に対峙する女性たちでした。コロナを機に風俗の世界から足を洗い、「デリヘルが私のことを救ってくれましたね。そこでいろんな人に出会って人生経験を積めたから、いまも昼間の仕事ができているんだと思っています」と前向きに語る女性がいるかと思えば、「『昼間の仕事がなくって大変だろう』とお金を送ってくれる人がいるんです。……(5人分)合わせると月75万円になります」と告白するソープ嬢もいます。長年SMクラブを経営している女性は売り上げの激減に悩みながらも、「(持続化給付金などの)国の補助金はいっさい受け取るつもりはないから関係ないです。そういうお金を受け取るとね、結局、税務署から目をつけられることになるから。極力目立たないようにやるのがいちばんだと思っています」と、この世界で長く生きてきた者としての矜持を口にしています。

 令和の時代にあっても、夫の暴力や家族の借金など本人の意思とは関係のないところで人生の濁流に巻き込まれ、風俗の世界の住人になることを選んだ女性は少なくありません。ですが、「人間は逆境のなかにあっても、その宿命に流されているだけの弱い生き物ではない」(本書「はじめに」より)ことを、彼女たちの知られざる戦いが証明しているようにも思えます。あたりまえだった日常が失われたとき、人はどう生きていくのか。保証なき日常を生きる女性たちの人生行路から、いくばくかの手がかりが見えてくるかもしれません。

(担当/碇)

【目次】

第1章 コロナとデリヘル女性経営者

売り上げが半減したSMクラブ
コロナのおかげで見つかった初のパート仕事
「数学の天才」がデリヘル嬢になったわけ
金魚を食べる困窮生活からキャバクラ、ソープ、AVへ
コロナに阻まれた風俗復帰
鶯谷の「その後」を見据える優子
一回八万円の超高級ソープ嬢の遍歴
…ほか

第2章 吉原の陰影

灯の消えた色街吉原
現役ソープ嬢が語る吉原のいま
コロナでソープを辞め、また戻ってきた真理子
ソープ三〇万、デリヘル四五万、男たちから一〇五万円
梅毒とコロナ
十歳から体を金に替えてきたフーミン
…ほか

第3章 クラスター発祥地、ススキノの夜

コロナの猛威がはじまった街
コロナ感染の疑いから一年、ふたたびススキノへ
最後の脱法売春地帯
北のアニキときしめん屋
自衛隊出身の人妻ヘルス従業員
水商売を支える花屋
元銀行員のソープ嬢めぐみ
…ほか

第4章 伊香保温泉とタイ人娼婦

売春を強いられたカンボジア人女性
外人通りの「スナック夢」
新潟から来た遊女、タイから来た娼婦
大学出の元ホテル従業員と元教師
離婚をきっかけに海外をめざしたメイ
休業するホテルと常連客が支えるスナック
…ほか

第5章 天王新地の娼婦と梅田のたちんぼ

地方の風俗街はどうなったのか
天王新地の娼婦アヤと座敷童
大阪の待ち合わせスポットで客をとる女性
マッチングアプリでたちんぼに会う
妖怪と女子高生の売春グループ、そして杏梨の場合
飛田新地、松島新地と兎我野の夜
…ほか

著者紹介

八木澤高明(やぎさわ・たかあき)
1972年神奈川県横浜市生まれ。ノンフィクションライター。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランスに。『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。2000年代初頭から日本各地の色街を追いつづけ、『黄金町マリア 横浜黄金町 路上の娼婦たち』『娼婦たちから見た日本』『色街遺産を歩く』『青線 売春の記憶を刻む旅』『日本殺人巡礼』など著書多数。
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