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なぜ進化は私達を精神疾患に対して脆弱にしたのか?

なぜ心はこんなに脆いのか
――不安や抑うつの進化心理学
ランドルフ・M・ネシー 著 加藤 智子 訳

 コロナ禍において、日本ではうつの傾向が2倍以上に増加したとOECDによる調査が明らかにしています。この抑うつ的な気分になったり、不安になることは誰にとっても非常に辛いもので、こんな気持ちなんてなければいいと思ったことがある人は少なくないでしょう。しかしここで、これらの気持ちを生み出すメカニズムが、進化の課程で理由があって人類が獲得したではないかという視点に立ってみるとき、この一見デメリットにしか思えない感情にも、その有用な存在理由が見えてくるのです。本書は、進化論の視点から不安や抑うつを生む仕組みが人類に備わっている理由を考える、画期的な進化精神医学です。

・生存率を高めるために獲得された抑うつ

 本書では、感情が生物の個体ではなく遺伝子の伝達にとって有意義な機能であるとし、ダーウィニズムの視点から、不安や抑うつが遺伝子の生存率を高めることにどう貢献しているかを考察してゆきます。たとえば、抑うつ状態は不必要に行動するのを避けエネルギー消費を節約することで、過酷な環境下での生存率を上げるのに有効であったと考えることができます。また現状を悲観的に見積もる「抑うつリアリズム」と呼ばれる認識の傾向により、これも厳しい環境での生存確率を高めていた可能性が指摘されています。これは、極端に言えば、もし躁的な性格が人類の多くを占めていた場合、リスクをとる人ばかりで絶滅の危機に瀕していたしていた可能性も考えられるということです。ただし、過去の過酷な状況と比べると、現代は遥かに危機が少ない状況であると言えます。ですから、現代における不安や抑うつは、過去には生存のために必要だった機能が、誤作動を起こして過剰反応しているように見える側面があるのです。

 「心の傷つきやすさ」というのは、今でも未知の領域が多い重要かつ難しいテーマですが、本書がそのしくみの理解を大きく進める一助となれば幸いです。

(担当/吉田)

著者紹介

ランドルフ・M・ネシー
医学博士。アリゾナ州立大学進化医学センターの創設ディレクターであり、同大学生命科学部の基礎教授を務める。ミシガン大学の精神医学教授、心理学教授、研究教授を歴任。著作に『病気はなぜ、あるのか―進化医学による新しい理解』(新曜社)がある。

訳者紹介

加藤智子(かとう・ともこ)
筑波大学第二学類比較文化学類卒。英国イースト・アングリア大学文芸翻訳修士課程、米国ミドルベリー国際大学院モントレー校翻訳・通訳修士課程を修了。現在は主に、書籍翻訳、映像翻訳等に携わる。訳書に『アメリカン・ハードコア』(メディア総合研究所)など。
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