話題の本
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世界中のビジネスが1つの勝ちパターンに呑み込まれつつある

◆企業経営の「では、どうすればいいのか」に答える!
「プラットフォーム化だ」「SaaS化だ」「サブスクリプションへ移行せよ」「DXを急げ」……。小売り業や製造業など、日本を支えるビジネスの多くが岐路に立たされ、方針転換を迫られてることは論を待ちません。しかし、「では、どうすればいいのか」については、様々な掛け声が先行するものの、「それをすればどうなるのか」「なぜしなければならないのか」が見えず、多くの企業が方針さえ立てられないでいるのではないでしょうか。
本書は、その「では、どうすればいいのか」に答える本です。今後のビジネスが「フリー=無料提供」「ソーシャル=ネットワーク効果活用+ソーシャルネットワーク活用」「価格差別=多様な人に多様な価格で販売」と「データ利活用」の4つを相互作用させるビジネスモデル、つまり本書で言う「FSP-Dモデル」に支配されていくことを明らかにし、方針を決めあぐねているビジネスパーソンのための「経営戦略の未来地図」となるべく書かれました。
ここに挙げた4つは、これまでも個別には論じられてきました。しかし、実は相互作用させることではじめて、大きな効果を発揮することはあまり知られていません。GAFA、メルカリ、LINE、Netflix、コマツなど、注目の企業はいずれも、これらの相互作用を利用するFSP-Dモデルで、高収益を上げているのです。
◆「フリー」と「価格差別」の相互作用で高収益を達成するLINEとモバイルゲーム
ここでは「フリー」と「価格差別」を相互作用させる例を紹介しましょう。多くのフリーのサービスは、「無料会員」と、月額費用を払う「プレミアム会員」がいる「フリーミアム」モデルで運営されています。これも0円と月額数百円という2段階の価格設定があるので「価格差別」があるとも言えますが、本書では「多段階価格差別」モデルについて詳述しています。たとえば、LINEもモバイルゲームも基本無料ですが、より楽しみたい人はLINEスタンプや、ゲーム内アイテムなどの「デジタル財」を購入します。その購入量には制限がないので、LINEによるコミュニケーションや、モバイルゲームが大好きな人は、好きなだけ買える(課金できる)という「多段階価格差別」モデルになっているのです。これらの熱心なユーザは、月に数千円や、時には数万円単位でデジタル財を買うこともあります。
この「多段階価格差別」は非常に大きな利益を生みます。詳しくは本書の内容に譲りますが、従来の一物一価や、単純なフリーミアムモデルと比べ、数倍から10倍近い収益となることがわかっています。
◆気鋭の経済学者が実証研究に基づいて描く経営未来地図
本書の著者は『ネット炎上の研究』(勁草書房)などの著書で知られる気鋭の経済学者。自身の学術研究をもとにしているので、もし企業人が著者だったら「秘中の秘」として絶対明かさないような驚きの事実も、余すところなく書かれています。
たとえば、上記のモバイルゲームにおいて、ユーザに課金を促す施策をやり過ぎると「課金疲れ」が起きてユーザ離れにつながることが知られています。では、その「課金疲れ」が起きる課金額の「分水嶺」は、月額いくらなのか…という点も研究されており、本書で明かされているのです。
もう1つ、本書で明かされている研究の例として挙げたいのは、フリマアプリに関する衝撃的な事実です。メルカリのような中古売買を行うフリマアプリが普及したせいで、新品の購入が阻害されると恐れる方は多いでしょう。しかし、著者の研究により、フリマアプリの普及は新品購入を阻害するどころか、促進していることがわかりました。便利と思って新品を買ったが実際は使わなかったという場合でも、気楽に売ることができるので、新品購入の敷居が下がるからです。その経済効果の規模についても算出されており、本書に記されています。
新しいパースペクティブの提示を、最新の実証研究に基づいて行っている本書は、すべてのビジネスパーソンが読むべき一冊と言えるでしょう。
(担当/久保田)