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日本企業が変化に対応できない本当の理由

予測不能の時代
―― データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ
矢野和男 著〔(株)日立製作所フェロー/(株)ハピネスプラネットCEO〕

◆『データの見えざる手』から7年。待望の新著、遂に刊行!

 2014年に著書『データの見えざる手―ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(草思社)でビジネス界に衝撃を与えた研究者による新著が、遂に刊行されることとなりました。『データの見えざる手』は、人々の幸福度がウエアラブルデバイスで計測可能であることや、人間行動の測定と人工知能を組み合わせることで大幅な生産性向上が見込めることを明らかにし、大きな注目を集めました。刊行から今日に至るまで、著者の研究はテレビ・新聞・雑誌やWEB媒体など、数多くのメディアに取り上げられ続けています。

 前著から7年を経て、この間に蓄積した新たな知見や、多くの日本企業の協力を得て行われた大規模な実証実験の成果が、新著にまとめられています。テーマはタイトルにあるとおり「予測不能」。新型コロナの流行など、社会は以前にも増して予測不能に変化するようになっています。現代の企業は「予測不能な変化に、いかにすばやく対応するか」という新しい競争にさらされていると言えるでしょう。著者は、組織が「予測不能な変化」に対応するためには、マネジャーは従業員が幸せであるよう環境を保たなければならない、と言います。いったい、どういうことなのでしょうか?

◆幸せな人が多い企業は、一株当たり利益が高く、生産性も創造性も高い

 予測不能な変化が頻発すると、従業員は新たな環境に対応するため、実験と学習をし、関係者と折衝もして、仕事のやり方を変えるという、非常に面倒なことに挑み続ける必要があります。このような「面倒なこと」こそが、今や最も生産性の高い仕事だからです。これを続けるために、従業員は幸せでなければならない、というのです。実際、ここ20年間のポジティブ心理学や組織行動の研究により、幸せな人は「面倒だが重要な仕事」に積極的であり、幸せな人が多い企業は生産性や創造性が高く、一株当たり利益も高いことが示されています。逆に、幸福感が低いときに、面倒な仕事を後回しにしがちになるというのは、誰しも経験があるでしょう。

 では、従業員を、組織全体を、幸せに保つためにはどうすればいいか? 著者はそのための科学とテクノロジーを研究してきました。今や、著者らが開発した技術により、スマホアプリで組織の幸福度を測定することが可能となっています。また、数多くの日本の企業が参加した実証実験により、組織を幸せな状態に導く介入法の研究が行われており、実際に生産性が向上することが示されているのです。

 この20年間、生産性向上で他国の後塵を拝してきた日本。その日本が再び飛躍する鍵は「幸せ」にある――。日本を再生させる力を秘めた最新研究の成果が詰まった、ビジネスパーソン必読の一冊です。

(担当/久保田)

◆目次◆

まえがき

第1章

予測不能な変化に立ち向かう
変化への適応を阻む組織の構造
「ルール」という罠
「計画」という罠
「標準化と横展開」という罠
「内部統制」という罠
生産性向上はなぜ重要なのか
生産性向上はなぜ行き詰まったか
多様性と変化に対応するための4原則
第1の原則:実験と学習
第2の原則:上位目的へのこだわり
第3の原則:自己完結的な機動力
第4の原則:「前向きな人」づくりへの投資
変化に強い組織と弱い組織の違い
4つの原則は個人にもあてはまる

第2章

新たな幸せの姿
変化への対応と幸せと大量のデータ
ポジティブ心理学の誕生と発展
「幸せな人は生産性が高い」という発見
技術が心理研究・人間行動研究を変える
人間行動を計測するウエアラブル端末
スマートフォンは人間理解を前進させる
人間行動センシングで何をしてきたか
幸せとは何か
手段としての幸せは人それぞれで多様
生化学現象としての幸せは人類共通
幸せの調査と行動計測を同時に行った
コミュニケーションの多寡は幸せとは関係ない
幸せな組織の普遍的な4つの特徴「FINE」
つながりに格差や孤立がない(フラット)
短い会話の頻度が高い(インプロバイズド)
会話中の身体運動(ノンバーバル)
発言権の平等性(イコール)
幸せで生産性の高い組織をつくる4条件
幸せで生産的な組織のマネジメント
心理的安全性の確保がマネジメントの基本

第3章

幸せは天下のまわりもの
無意識の身体の運動から「幸せ」がわかる
身体運動データの中にある「幸せの配列」
身体運動の計測だけで幸せが測れる
「よい幸せ」と「悪い幸せ」が区別可能に
幸せは天下のまわりもの
幸せは経済現象か物理現象か
いかに生きるべきか

第4章

幸せとはスキルである
幸せの3つの時間軸
幸せを高める能力「心の資本=HERO」
HEROを育むにはどうすればいいか
心の資本と私
ホープ/エフィカシーはこうして高めた
既に持っているもので始める
「実験と学習」で道を見つけていく
資源と権限は、実績によって獲得する
成功に必要なことは何でもやる
自分の役割は自分で決める
レジリエンス/オプティミズムはこうして高めた
仕事の上位目的にこだわり、手段にこだわらない
大義の威力
困難を最高の学びの機会にする
新たな人との出会いを活用する
最終的に仕事のやり方はどう変わったか
幸せは、新事業創生を可能にする
エフェクチュエーションとコーゼーション
各言語に表れる幸せの多様性
日本のしあわせは「人との交わり」

第5章

変化に向き合うマネジメント
今や人こそが企業の価値の源泉
人的資本のものさしをつくる
組織のレントゲン写真「人的資本マップ」
「ウエルビーイングケア」が可能になる
組織の病としての「孤立」
孤立へのテクノロジーを使った処方箋
組織へのデジタルなクスリ:X施策とY施策
幸せを求める心につけ込むコロナウイルス
幸せなリモートワークのための4箇条
雑談支援のためのデジタルなクスリ

第6章

変化にデータで向き合う
データやAIに関する議論はリセットが必要
データは過去をまねるためのものか?
あまり認識されていない「統計学の限界」
予測不能に対応するためのデータ活用
過去の延長からの乖離を検知し対処する
注目すべきは変化をもたらす「力」の存在
データとAIは行動を支援するもの
データによるガバナンスの3つのレベル
「ルール廃棄ができない組織」からの脱却

第7章

格差の本質
格差は社会の発展に制約を与える
格差の原因は何か
ハイエクとフリードマンの自由主義経済
完全に平等な取引からも格差は生まれる
格差は「エントロピー増大」の帰結である
不平等を拡大させるルールの存在
勝者優遇のルールが格差を拡大させる
因果応報で格差拡大する例:書籍売上
平等は自然には現れず、意識的にしかつくれない
格差回避の本丸、教育
学歴と賢さは必ずしも関係ない
格差とは量子効果である

第8章

予測不能な人生を生きる
幸せとは「状態」ではなく「行為」である
予測不能と向き合う最古の方法『易』
「未知の変化への対応力」は退化してきた
『易』の変化の理論とはどのようなものか
二項対立を俯瞰・統合し突破する能力
変化に立ち向かう力を高める方法
視点の柔軟性が人生を変える
「オプティミズム」訓練のための16個の視点
16個の変化に立ち向かう視点
受けとめる「0000」
覚悟する「0100」
求める「0001」
立ち向かう「0101」
始める「1000」
やってみる「1100」
交わる「1001」
踏み出す「1101」
信頼する「0010」
教わる「0110」
心開く「0011」
感謝する「0111」
結束する「1010」
協調する「1110」
対等になる「1011」
協創する「1111」

あとがき

日本が世界に誇るべき概念「道」
年齢と創造性
しあわせ憲法

著者紹介

矢野和男(やの・かずお)
株式会社日立製作所フェロー。株式会社ハピネスプラネット代表取締役CEO。
1959年山形県酒田市生まれ。1984年早稲田大学物理修士卒。日立製作所入社。91年から92年まで、アリゾナ州立大にてナノデバイスに関する共同研究に従事。1993年単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功し、ナノデバイスの室温動作に道を拓く。
2004年から先行してウエアラブル技術とビッグデータ解析を研究。論文被引用件数は4500件、特許出願350件を超える。「ハーバードビジネスレビュー」誌に、開発したウエアラブルセンサが「歴史に残るウエアラブルデバイス」として紹介される。開発した多目的AI「H」は、物流、金融、流通、鉄道などの幅広い分野に適用され、産業分野へのAI活用を牽引した。のべ1000万日を超えるデータを使った企業業績向上の研究と心理学や人工知能からナノテクまでの専門性の広さと深さで知られる。2014年に上梓した著書『データの見えざる手:ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(草思社)が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。
無意識の身体運動から幸福感を定量化する技術を開発し、この事業化のために2020年に株式会社ハピネスプラネットを設立、代表取締役CEOに就任。
博士(工学)。IEEE Fellow。電子情報通信学会、応用物理学会、日本物理学会、人工知能学会会員。日立返仁会副会長。東京工業大学大学院特定教授。
1994 IEEE Paul Rappaport Award、1996 IEEE Lewis Winner Award、1998 IEEEJack Raper Award、2007 Mind, Brain, and Education Erice Prize、2012年Social Informatics国際学会最優秀論文など国際的な賞を受賞し、「人間中心のIoT技術の開発と実用化に関するリーダーシップ」に対し、世界最大の学会IEEEより2020 IEEE Frederik Phillips Awardを受賞。
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