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「安心・便利な旅」をめぐる語られざる創意工夫の物語

パッケージツアーの文化誌
吉田春生 著

 日本人の「旅」のかなりの部分を担ってきたにもかかわらず、その内実についてはあまり知られていない「パッケージツアー」。この本はその来歴に光を当てる出色の文化誌です。著者は海外旅行の黎明期・拡大期に旅行会社の社員としてさまざまな経験を積み、その後、観光学の研究者に転じて、旅の現場を熟知した立場から日本の観光の在り方を考察してきました。本書では、老若男女問わず気軽に旅を楽しむことができるパッケージツアーの仕組みがどのようにして生まれ、成長してきたかを丁寧に記述しています。

 一言でパッケージツアーといっても、その実態はさまざまです。参加者の多様化しつづけるニーズに旅行会社はどのように応えてきたのか。そして、その結果どのようなパッケージツアーが生まれたのか。本書では著者が所有する過去のツアーパンフレットなどもひもときながらパッケージツアーの進化の歴史を振り返り、その未来像を考察しています。詳しくはぜひ本書をお読みいただきたいのですが、各旅行会社のツアーのコース内容や料金だけではなく、その時代背景についても解説されていて、旅に関心のある方であればまちがいなく興味を惹かれる内容になっています。

 新型コロナウィルスの感染拡大は日本のさまざまな業界に大きなダメージを与えました。なかでも壊滅的な痛手を被ったのが観光業界、旅行会社です。この一年あまりで発生した深刻な事態から回復するのには時間がかかりそうですが、これまで幾多の苦境を乗り越えてきた旅行業界は、今回の危機も新たな創意工夫によって克服できるのではないかと著者は期待しています。そして、「その思いはパッケージツアーを中心とした旅行会社の取り組みの歴史を振り返ることで明確になる」(本書「はじめに」より)のです。コロナ禍によって移動の機会を奪われたことで、私たちは改めて旅することの意味を考えることになりました。日本人の旅を独自の視点で振り返る本書は、思いのほか多彩な「旅の楽しみ」に気づかせてくれる一冊でもあります。

目次

はじめに
序章   パッケージツアー以前――一九六〇年代の海外旅行
第一章  パッケージツアーとは何か
第二章  パッケージツアーは何を提供しているか
第三章  ビジネスとしてのパッケージツアー
第四章  こんなパッケージツアーがあった
第五章  パッケージツアーの未来
終章   「コロナ以後」はどうなるのか

(担当・碇)

著者紹介

吉田春生(よしだ・はるお)
1947年、名古屋生まれ。1970年、大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)卒業。日本交通公社(現JTB)に約20年間勤務したのち、専門学校の非常勤講師を経て鹿児島国際大学で教鞭をとり、経済学部教授を最後に定年退職。旅の現場を熟知した立場から日本人の旅行・観光の在り方に光を当てる著作多数。主なものに『観光と地域社会』(ミネルヴァ書房、第1回日本観光研究学会「学会賞観光著作賞」受賞)、『新しい観光の時代 : 観光政策・温泉・ニューツーリズム幻想』(原書房)、『ツアー事故はなぜ起こるのか : マス・ツーリズムの本質』 (平凡社新書)、『観光マーケティングの現場 : ブランド創出の理論と実践』(大学教育出版)などがある。
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