草思社

話題の本

このエントリーをはてなブックマークに追加

なぜ黒川紀章の中銀カプセルタワーは常に時代の先端を行くのか?

中銀カプセルスタイル
中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト 編

1972年、世界的建築家である黒川紀章氏の代表作が誕生しました。それが銀座に立つ、中銀カプセルタワービルです。本書はそのカプセルの中で「超イマドキ」な生き方を実践している人たちの暮らしと、普段は見学できないインテリア空間に美麗な写真で迫ります。

・「移動する人類」が生きる未来を予見していた建築

 丸い窓のついた箱がブドウの房のように取り付いたカプセルタワーの印象的な外観は「メタボリズム」の思想を体現したものです。メタボリズムは世界的に知られる日本の建築運動で、社会の変化に合わせて生き物のように成長・増殖する建築をめざしました。その思想の実現とともにこの建築が目指したのは、「人類は将来、交通や情報技術の発達により移動し続けるようになる」という黒川氏の未来予想のもと、都市に短期間滞在するための最小限の空間をつくることでした。この予想図は、情報化が進み、パソコン一つあればどこでも仕事ができる今の時代に見事に一致します。そればかりではなく、極小の空間に住まうというコンセプトは、昨今流行りの「ミニマリズム」さえも先取りしていたと言えます。

・リモートオフィスにも対応。常に時代の先端を行く

 カプセルタワーはいま、さらにその上を行く展開を見せています。DJコスプレイヤーのSNS配信用の「映える」発信拠点。コロナ禍でのリモート用オフィス。建築家が自身でリノベーションした空間……最先端のライフスタイルに、カプセルタワーはまるでそれを待っていたかのように適応しているのです。備え付けのデスクにノートパソコンを置いて作業したり、Bluetoothスピーカーを仕込んでみたり。カプセルでの暮らしぶりを見ると、極小の空間は人間の想像力を刺激し、無限に工夫できるかのように感じられます。
 現在、カプセルタワーは解体の危機にさらされています。これほど時代にフィットした空間を50年近く前に実現していた建築を壊してしまうことで、私たちはどんなものを失うのでしょうか。あるカプセルの利用者はこう言います。「窓の外を見ていると、1時間に2~3人くらいは向かいの歩道橋から写真を撮っています。面白さ、楽しさは住んでいる人だけのものではない」、と。カプセルを魅力的に使いこなす人たちの姿をご覧になり、建築が形を通して文化を築く装置であることの意味に、思いを馳せていただければ幸いです。

(担当/吉田)

著者紹介

中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト 編
代表、前田達之。中銀カプセルタワービルの保存と再生を目的に、2014年にオーナーや住人とプロジェクトを結成。見学会の開催や1か月単位で宿泊できるマンスリーカプセルの運営、取材や撮影のサポートをおこなう。編著書に『中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟』(2015年、青月社)『中銀カプセルガール』(2017、青月社)などがある。
この本を購入する