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世界のリングで活躍する名選手が「職業としてのプロレス」の深奥をつづる!

本書は、世界最大のプロレス団体「WWE」で長年にわたって活躍し、ゼロ年代には全米で「イチローより有名な日本人」と言われた名レスラーが、プロレスというエンターテインメントビジネスの魅力と奥深さを語り尽くした一冊です。
本書の冒頭で著者は、「プロレスとはキャラクター産業である」というWWE総帥ビンス・マクマホンの言葉を引用しています。この言葉にこそプロレスというジャンルの真理が込められているという著者ですが、興味深いのは「プロレスにおけるキャラクターは、その人がもともと持っている資質を活かしたものでないとうまくいかない」という指摘です(著者は稀代の人気選手ジョン・シナの「ラッパーキャラ」を例にあげて、ブレイクするキャラと不発に終わるキャラの違いを論じています)。
さらに著者は、プロレスのリングにおいて選手が繰り出す技は「自身のキャラクターを紹介するためのツールにすぎない」と断言しています。技自体を披露することを目的とした試合は、それがどんなに派手な技であっても見る者の心に残らないのです。「(プロレスラーが)お客さんに見せるものは技自体ではなく、あくまでもその技を通して見えてくるプロレスラーの『キャラクター』と、その『心情』なのだ」という記述は、多くのプロレスファンにとって目からウロコではないでしょうか。プロレスラーにはオリジナリティのある完成度の高い技が必要不可欠ですが、その技を通してその選手のキャラクターが観客に伝わらなければまったく意味がないのです。観客に明確に「伝える」ための方法論を、本書ではサイコロジーという言葉を使って詳しく解説しています。
かつて、これほどまでに深く重層的にプロレスというジャンルの特質を語った本はありませんでした。WWEからインディペンデント団体まで、世界中でさまざまなリングに上がり、またみずから団体をプロデュースした経験も豊富な著者だからこそ書きえたプロレス論といえます。プロレスファンのみならず、エンターテインメントや表現に関心のあるすべての方にぜひお読みいただきたい一冊です。
【本書より】
〈プロレスは「人に見られること」が大前提なので、「見るに値する何か」を提示できないプロレスラーには存在理由がない。〉〈WWEのプロレスは、サイコロジーにより徹底的に整備されている。緻密で合理的なサイコロジーによって、無駄な要素は一切排除される。時にはそうではない作品もあるのだが、少なくとも「すべて、そうあるべきだ」という方向性がつねにある。 そこでは映画やマンガと同様に「意味のないシーンが一瞬でもあってはならない」という、エンターテインメントと呼ばれるジャンルの基本が徹底されているのだ。〉
〈全員ミーティングで、毎回ビンスが最後に決まって話していたのは「表情でプロレスをしろ!」ということだった。両手で四角いフレームを作り、それを顔の前で交互に動かし、「マネー・イズ・ヒア!」 「プロレスというビジネスでは、マネーは『ここ(顔の表情)』によって生み出されるんだ!」というのがビンスの最重要なプロレス哲学の一つだった。〉
〈いま、プロレス界には「楽しいプロレス」という概念が蔓延している。もちろん、楽しいという打ち出し方も「一つの正解」で、それを否定するつもりは微塵もない。(中略)しかし、プロレスを見せる側までその概念に染まってしまって、その範疇から外れたものを提供することにビビッてしまってはいけない。プロレスというジャンルはもっと奥深いものなのだ。〉
(担当/碇)