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アアルト夫妻の素顔に手紙から迫る、貴重なドキュメント!

フィンランドが生んだ世界的なデザイナーにして建築家であるアアルト。2023年10月には日本でも映画『アアルト』が公開され、そのデザインはわが国で人気が高まり続けているのみならず、彼らが追求した設計の思想は、いまなお日本の建築・デザイン界で参照・展開され続けているといえます。なぜその作品は、ここまで支持されているのでしょうか。それは、曲線と木材を用いたデザインの先にある、人間と自然への深い理解という点において、わたしたちの共感を得ているのだと思います。本書は、そんなアアルトの人間性やデザインの裏側に迫ることができる、二人の手紙を集めた書簡集です。孫のヘイッキ氏が編者としてまとめたもので、これまでの学術的な伝記とはことなる、近しい者ならではの視点が多く盛り込まれています。
アイノトアルヴァは、実際にはどのようにしてお互いを信頼し、想いあっていたのでしょうか。アルヴァは、男性からも女性からもとても人気があり、アイノをやきもきさせることも多々あったようで、
「あなたからの手紙が待ち遠しいので、なんでもかまいませんから書き送ってください、
特にこちらへ戻る途中に送るときは、すぐに到着するように航空便にしてください。……みな元気で、それぞれ楽しく過ごしています。家に戻ってきたら、けがれなき頰に、そしてそれ以外のところにもたくさんキスをしたいです。 (他の人に愛想よくして、私を誤解させないで。 )私が考える愛とはこういうものです。」
という手紙などを見ると、そのことが良くわかります。しかし、アルヴァもただの浮ついた男ということは決してなく、このような家族を思う手紙を書いたりしています。
「これまで、出かける前は、思い込みすぎたり悪い方向に物事を考えすぎて、辛い思いをしていましたが、今は、落ち着いています。こうやって横になってあなたと話ができるからこそですが。これまでは、私が一方的にあなたに助けて欲しい、とあなたのことを想っているのだと思っていました。常に心に何かつっかえるものがあって、いつも辛いのです。
今は、不安は無く、あなたたちを家に置いてきても安心できていますので、幸せな日々を送ることができている、と考えるようになりました。そう、いつも私たちの軸になるものはなんだろう、ということに―あなたには、きっとわかっていますよね―つまり、いたずらをすることとか、口をとがらせたり、からかったり、おしゃべりしたり、絵を描いたり、あなたの新しいスカートのことだったり、そんなすべての物事―私たちが追い求める日々の生活のこと―がすべて同じようにあって欲しいと願っています。」
こういったやり取りの積み重ねを見ることで、二人の関係性が実にリアルに伝わります。
また、近年そのアイノについての再評価が進んでいますが、本書はアイノのことから始まってその最期までを扱っており、今まで触れられることのなかった、アイノの人間性に迫る貴重な資料となっています。
さらに、これまでにもアアルト夫妻とヴァルター・グロピウス、ラースロー・モホリ=ナジ、フランク・ロイド・ライトらとの間の交流についてふれたものはありましたが、以下のモホリ=ナジの手紙を読むと、その絆が想像以上に深いものであったことがわかります。
「親愛なるアアルト
サヴォンリンナで二人の手紙を受け取り、私たちは、その手紙に大いに励まされました。とても長くて、読んでいて楽しい手紙で、私たちに対して心から向き合ってくれるのと同じ温かさを感じました。昨晩、モホリは、~」とても嬉しそうな表情で、二人の素晴らしさについて話して聞かせましたので、グロピウスは最初に、本当に二人とも長い休暇を取って付き合ってくれたのか、と尋ねてきました。」
アアルトの名作にまつわる手紙ももちろん収録されており、ユヴァスキュラの労働者会館やマイレア邸のほか、ベイカーハウスの進行と並行してアイノの病気が進行していく最後のパートは、本書の最大の読みどころとなっています。
これまで語られることのなかった、アアルト夫妻の人間性を知ることは、二人の内面を知るにとどまらず、彼らの人間に寄り添った彼らの作風を理解するうえでも、この上ない発見をもたらしてくれるものと思います。

(担当/吉田)
2023年はアルヴァ・アアルト生誕125周年
10月13日(金)より、全国で順次公開
