話題の本
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失われた30年から脱却するためのカギがここに
◆イノベーション、商品普及、業務刷新――。変革を進めるのが難しいのはなぜか
キャッシュレス化や、教育や医療や勤務のリモート対応などを普及させ、世の中をより効率的で便利にしよう、生産性を上げようという動きが活発になっています。とはいえ、取り入れるかどうかは個人や個別の企業・組織の自由ですから、変化はなかなか進みません。「変われないこと」が日本の問題として認識されて、はや数十年。何とかならないものでしょうか。
しかしこの「変われない」という問題はべつに日本特有ではなく、程度の差こそあれ、どこにでも見られる普遍的なものです。本書はこの問題への対処法を実践的に解説したもの。心理学者と起業家というバックグラウンドを持つ2人の米国の経営学教授が著した、学術的にも裏打ちされた本です。
「変化を嫌う人」に対し、多くの人は、利点をくわしく説明したり、金銭的なインセンティブを増加させたりして動かそうとします。しかし本書によると、多くの場合、これには効果がありません。それよりも変化を取り入れる障害となっている「抵抗」を取り除く方がずっと効果がある、といいます。
◆利点の説明、インセンティブ設定では変化は促せない。「抵抗」の解消こそがカギ
本書が取り上げている事例を紹介しましょう。入院中の子どもに手紙を送る活動への参加者を増やしたいとします。どうすればいいでしょうか。この事例では金銭的見返りと、子どもたちからの感謝の言葉を伝えることの効果が検証されましたが、効果なし。代わりに手紙の文例を示したところ、参加者は大幅に増えました。人々は、不適切な内容の手紙を書いてしまうことへの不安から、参加を躊躇していたのでした。手紙で、同情を寄せるべきか、それとも励ますべきか、といった迷いです。文例を示すことで、参加への「抵抗」となっていた不安が解消され、手紙を書いてくれる人が大幅に増えたのです。
投票を促す電話キャンペーンでも「抵抗」の解消で大幅に効果が上昇した事例が紹介されています。選挙の意義を伝えるだけでなく、当日にどんな交通手段で投票所に行くかを訊ねて話し合うようにしたのです。投票所へ行く方法が明確になったことで、投票率上昇の効果は2倍になりました。交通手段に関する茫漠感が、投票へ行く「抵抗」となっていたのでした。
このように「抵抗」の解消は非常に効果的ですが、行動を躊躇する本人さえ何が「抵抗」となっているかを自覚していないことが多いので、「抵抗」を探すことも、ましてや解消法を考えつくことも、何も知らなければ非常に困難です。本書の著者は変化への「抵抗」を「惰性」「労力」「感情」「心理的反発」の4つに分類。それぞれの「抵抗」の発見の仕方や対処法を、多くの事例を示しながら体系的に紹介していきます。非常に実践的に「変化を嫌う人」へのアプローチが示されているのです。
日本が失われた30年と言われる停滞から脱却するためにも、多くの方に読んでいただきたい1冊です。
(担当/久保田)
目次
1.魅力的なアイデアが成功しない理由
弾丸があれほどよく飛ぶのはなぜか
魅力の増大ばかりに注力する人々
買いたいのに「購入」ボタンを押せない顧客
新しいアイデアの受け入れを阻む4つの「抵抗」
イノベーションを解剖する
読んでいただきたい方々
倫理規範についての注意事項
誠実な戦略か、人を惑わせるような戦略か/意図は何か
2.魅力アピールに専念するのはやめよう
月平均132台の車を売る自動車販売員
自動車ディーラーのうんざりさせられる売り込み
進まないのは「燃料」が足りないせいと思い込む
人を動かす「燃料」には2つのタイプがある
「促進型燃料」とは何か
「回避性燃料」とは何か
人の心を支配するのは「燃料」より「抵抗」
「燃料」に頼る施策は高くつく
「燃料」となるメリットは誰にでも分かる
「燃料」が「抵抗」を増幅し事態悪化を招くことも
私たちを「燃料」思考にさせる脳の癖
3.「惰性」
人は変化より不変を、未知より既知を好む
見なれたものを好む「単純接触効果」
人は知っている商品を購入する
人生観や政治的規範より強い「既知」の力
「惰性」はいかにしてイノベーションを損ねるのか
4.「惰性」を克服する
よく知らないものを知っているものに変える
新しいアイデアに慣らすことで「抵抗」を和らげる
戦略その1:何度も繰り返す
戦略その2:小さく始める
戦略その3:伝達者をオーディエンスに似せる
戦略その4:提案を典型的なものに似せる
戦略その5:喩え(アナロジー)を使う
選択肢の提示に相対性を取り入れる
戦略その1:極端な選択肢を追加する
極端な選択肢の実例──契約期間と教員採用
戦略その2:劣った選択肢に光を当てる
劣った選択肢戦略とおとり選択肢のでっちあげ
カエルも劣った選択肢に影響を受ける
相対性に関する失敗はいつ起きるか
「慣性」を克服する方法のまとめ
アイデアに慣らすための戦術/相対化するための戦術
5.「労力」
カニも人も最小の労力で最大の成果を得たがる
最小努力の法則はいたるところに見られる
最小努力の法則は友人関係にも認知にも影響
「高い価値」より「少ない労力」が優先される
「労力」の計算は少しのことで大きく変わる
私たちは「労力」の影響を軽視している
入学志願者を増やすためにシカゴ大学がしたこと
コラム│「労力」に価値が見出される状況
6.「労力」を克服する
「労力」を減らして人々を救った事例
「労力」の2つの側面──「苦労」「茫漠感」
ロードマップの作成で「茫漠感」を制した事例
「イノベーション」をロードマップに落とし込む
その行動を取るべきタイミングを設定する
行動の簡素化で「苦労」を減少させる
コラム│人々が作る近道「けもの道」
必ず知っておくべき2つの簡素化テクニック
「ノー」と言いにくくする/デフォルトにする
コラム│UXデザイナーのように思考する
「労力」を克服する方法のまとめ
ロードマップを作成する戦術/行動を簡素化する戦術
7.「感情」
「ケーキを焼いた感じがしない」という問題
「感情面の抵抗」──出会い系アプリの事例
コラム│感情とは何か
「ジョブ理論」に基づいて感情について考える
ペット持ち込み不可のDVシェルターの事例
機能面の価値が「感情面の抵抗」を招いた事例
リーダーが優秀な部下を重用しない理由
製品情報収集のセルフサービス化の弊害
8.「感情」を克服する─価
探していないものは目に入らない
「感情面の抵抗」の発見は市場を拡大させる
「感情面の抵抗」が明瞭に表れることは少ない
「なぜ」にフォーカスする
コラム│理由を聞き出す質問の方法
行動観察者になれば「本当の理由」に近づける
アメリカン・エキスプレスの若年層顧客獲得戦略
コラム│行動観察者のマインドセット
外部の人を引き入れて「感情面の抵抗」を予測
顧客を従業員として雇う
コラム│「感情面の抵抗」に効く一般的な治療薬
「感情面の抵抗」を克服する方法のまとめ
「なぜ」にフォーカスする/行動観察者になる/外部の人を引き入れる
9.「心理的反発」
変化させられることに対する「抵抗」
自由が奪われると感じると「心理的反発」は起きる
相手の誤りを示す証拠が強力なほど態度が硬化
説得されていると感じるだけで「抵抗」は強まる
「心理的反発」が発生する要件は何か
アイデアが基本的な信念を脅かす場合/変わることへのプレッシャーを
感じる場合/オーディエンスがのけ者にされていた場合
10.「心理的反発」を克服する
変化を無理強いするのはやめよう
相手が自分を説得するのを助ける「自己説得」
メモ・カードの力──自分の目標を書き出す
偏見を弱める──ディープ・キャンバシング
「イエス」を引き出す質問をする
朝鮮戦争で米兵捕虜が受けた洗脳の仕組み
コラム│決定事項を「実験」と捉える
トップダウンではなく全員参加だとうまくいく
利害関係者たちとともに作る──コ・デザイン
自己説得の3つのルール
ルール1:自己説得は目安箱方式では無理/ルール2:メンバーに
コミットメントを発表させる/ルール3:参加を実質を伴ったものにする
「心理的反発」の大きさを測る問い
「心理的反発」を和らげる2つのテクニック
「イエス」を引き出す質問をする/コ・デザイン
11.3つの事例研究
「抵抗レポート」を使って分析し戦術を考察
研究事例その1:石油から起業への転換を成功させたドバイ
ドバイ未来財団/「抵抗」を克服する/失敗への恐怖を克服する/成果
研究事例その2:短期間での大麻合法化
「抵抗」を克服する/成果
事例研究その3:住宅購入時のハンデをなくす
もともとは「燃料」主体だったフライホームズ/成り行き任せの行動観察調査/「抵抗」/ポイント付与から顧客の「進歩」にピボットする/「抵抗」を克服する/成果
謝辞
監訳者解説
原注