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追いつめられる金一族、成熟しない韓国政治。またもや半島が波瀾の目に。

北朝鮮が父祖以来の「南北統一」を国是から外したのは2023年の末だった。本書のカバー写真で使われている「三大憲章統一塔」などの各地の巨大記念物は2024年1月には撤去・破壊されている。憲法も変えたし、国内や国外(朝鮮総連など)の教科書も「南北統一」をうたわなくなった。金正恩は韓流ドラマやK‐POPなどの文化浸透が北朝鮮の体制崩壊につながることを恐れて国を内向きに閉じ、韓国を「敵」と認定した。これは大変動の始まりだった。
金正恩は習近平から改革開放経済への転換を迫られ、港湾の借用などを要求されて拒絶するうちに中国との離反が始まり、金一族御用達の贅沢物資の停止などの「いじめ」が起こった。逆にウクライナ戦争を契機にロシアとの蜜月が始まり、兵器やさらに兵員までを供給する代わりに食料やエネルギー、金銭まで受けとるようになった。この傭兵で死んだ兵隊の賃金は金一族が受けとって遺族には何の謝礼もないということでビラがばらまかれ内乱の潜在要因にもなっている。
著者はウクライナ戦争が停戦などの収束に向かえば北朝鮮は中国からもロシアからも見捨てられ、アメリカと日本に接近するのではないかと見通しを述べている。そうすれば拉致問題解決の千載一遇のチャンスになるのか。
一方の韓国では尹錫悦大統領が2024年12月に突然、戒厳令を発布して軍隊を動かした。国会や選挙管理委員会にまで軍隊を入れて憲法違反に問われ、4月初め、弾劾罷免ということになった。この罷免をめぐって左右両極のデモ隊の激しい対立がソウル中心部で連日行われた。6月初めには大統領選挙が行われる予定だ。両勢力は拮抗しているので結果はわからない。左派系の李在明が今のところ優勢とみられている。
この戒厳令は本書では不正選挙というデマに踊らされた尹錫悦の「悪手」だと分析されている。医療改革の失敗、夫人のスキャンダル、左派による国政妨害などの内政行き詰まりが彼を狂わせたということだ。右派には現在、尹錫悦を擁護するような言説が多いが、これはどうか。彼は保守の朴槿恵元大統領追い落としの時の検事総長であり、本当の保守主義者、自由主義者ではないようだ。韓国全体の右派への傾きは暴力的な性向も秘めており弾劾罷免の決定でかろうじて民主主義が機能した。李在明はこれを見て「私は実は保守主義者なのだ」と言説を翻している。左右両方の候補とも機械主義的なのだ。
著者は韓国のナショナリズムは「反韓反日」主義を乗り越えないかぎり本物ではないと言っている。これはどういうことかというと、韓国80年代世代がとらわれていた歴史認識の誤りを正さないかぎり、本物の自由主義に立脚した民主主義は行われず、それにもとづいた南北統一も難しいということだ。本書を読むとまたしても19世紀末から20世紀初頭の朝鮮半島をめぐる政治状況が再来したのではないかと思わざるを得ない。
(担当/木谷)