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昆虫の顔に魅入られて。「不気味」「かわいい」、あなたはどう思うか。

昆虫顔面 超拡大図鑑
海野和男 写真 伊地知英信 編
昆虫顔面 超拡大図鑑

 普通、美人女優や美男俳優のクローズアップ写真に魅入られるというのはよくある。しかし、昆虫写真家・海野和男氏は「昆虫の顔」に魅入られてしまったという。何が氏をそんなに引き付けるのか。本書『昆虫顔面 超拡大図鑑』を見ていただきたい。昆虫嫌いの女性は「ワッ」と目を背けるかもしれない。しかしおそるおそる見ているうちに何か引き付けられるものがあるかもしれない。それが自然というものに触れ合うことである。本書が自然科学書であるゆえんである。
 海野和男氏の年来のテーマの一つは「昆虫の顔」を撮ること(ほかのテーマに、昆虫の「擬態」写真や世界の大型蝶の追跡などがある)。以前に他社から『昆虫顔面図鑑』(2011年)を出して評判になったが、本書はそれから10年以上たって、撮りためた新作を『昆虫顔面 超拡大図鑑』として120点の作品をまとめたものである。この二十年ぐらいのデジタルカメラ技術の進歩は驚くばかりで、とくに「深度合成」という技術は、昆虫のような小さいものでも、驚くほど精細な写真が撮れるようになった。昆虫は5センチぐらいなら大きいほうで、1センチとか5ミリ以下のものが大半だ。まして顔となるとなかなか普通の人間には見ることはできない(上から見ているので顔を真正面から見ることはない)。海野さんは微細な昆虫の顔をアップで撮り続けて、その驚異の世界に魅入られてしまったという。
 本書に並んだ昆虫の顔は多くの人にとって未知なものだ。しかし、よく見ると何か人間と共通した形態や目・鼻・口などの配置が見えてくるような気がする。これは擬人化という科学の禁じ手だが、意外に重要な学問的示唆も含んでいるようである。バッタ類は総じてのんきな顔、カマキリ類は凶悪な面構え。草食系のバッタは目が横についているためそう感じる。肉食系のカマキリは獲物を狙うために前についているのは肉食動物などと同じだ。仮面ライダーやSF映画の宇宙人(エイリアンやプレデターなど)の顔は昆虫の顔に似せて作っている。
 コラムや各解説ページでサイエンスライターの伊地知英信氏が「昆虫と顔」についての興味津々な話題を各種展開している。最新の「顔認証」技術や「進化生物学」の話など。いずれにしろ、人間の200分の1のサイズの虫だからまだ耐えられるが、これが人間と同じ200倍のサイズだったらどうだろう、と考えるのも面白い。とにかく地球上で最も数が多く、生き残ってきた生物は昆虫なのだから、かれらのことを知ることは重要である。
 人は見た目が100パーセントとかルッキズムはけしからん、とか様々な言説があふれているが本書をもとに考察してみるのも面白いかもしれない。

(担当/木谷)

著者紹介

海野和男(うんの・かずお)
1947年東京生まれ。昆虫写真家。『昆虫の擬態』(平凡社)日本写真協会賞(1994)、『昆虫顔面図鑑』世界編・日本編(実業之日本社)、『蝶の飛ぶ風景』(平凡社)など。草思社より『蝶が来る庭 バタフライガーデンのすすめ』『増補新版 世界で最も美しい蝶は何か』『不思議の虫ナナフシ』などを出版。自身の小諸山荘で日々昆虫を撮影した「小諸日記」をSNS上にて発信。

編者紹介

伊地知英信(いじち・えいしん)
1961年東京生まれ。自然科学書や博物館展示の編集者・ライター。自然観察のインタープリター。『完訳ファーブル昆虫記』(奥本大三郎訳、集英社)10巻、20冊の編集および訳注・脚注の執筆。『しもばしら』(岩崎書店)で第58回児童福祉文化賞。草思社より『ファーブル昆虫記 誰も知らなかった楽しみ方』『不思議の虫ナナフシ』(海野和男氏と共著)、『外来種は悪じゃない ミドリガメのための弁明』など。日本の凧の会会員。
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