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北欧のコテージに現れる生物たちの出会いが生む、生命への思索

リス、ミツバチ、キツネ、ワタリドリ、アナグマ…
詩人のコテージには、さまざまな生物たちとの出会いがあふれています。本書は、コテージがもたらす生命への哲学的な思考を、詩的に紡いだサイエンス・エッセイです。著者はスウェーデン文学の最高峰であるアウグスト賞の受賞作家で、叙情豊かな文体が生命への想像を膨らませてくれます。
スウェーデンの郊外にあるコテージには、豊かな自然に囲まれていることから、様々な動物がやってきます。例えば、リスの出会いはある意味予想どおりにかわいらしいものですが、コテージの天井裏に四六時中いれば、時にはその「生活」音は、著者をいらだたせもします。しかし、そういったリアルな体験をし、それを詩人の感性で言葉にすることで、生命の本質に迫ってゆきます。
その生物たちへのまなざしは、詩的な響きに満ちています。
「(ミツバチは)紙をつくる才能を持って生まれ、それで自分の生涯を満たすはずだったのだろう。これは一種の詩ではないだろうか?」
「優れた話し手は、話の本筋から脱線するのを避けるものだが、生命にとっては分岐こそが重要だった。」
「一個の遺伝子は百の和音を持っているとも言われ、他の遺伝子と相まって、古いテーマをまったく新しいサウンドに変えることができる」
そしてこれらは、単なる比喩にとどまるものではありません。著者にとって詩を書くことは、自然界の営みとそのまま地続きの行為であり、つまり人間が文章を書くことは、とても自然的な行為だということが、本書の最大のメッセージなのです。
「実際、スウェーデン語で『アルファベット』を意味するbokstavは、ブナ(bok)材に文字を刻んだことに由来する。それ以来、何十億ものアルファベットが木材チップからつくった紙に書かれている。文字と紙は協力して、ミツバチが花から蜂蜜をつくるよりも素晴らしいものを創造しなければならない。書くことの目的は、未来へ向けて生命の本質を伝えることではないだろうか。」
SDGsなど環境問題が注目される昨今ですが、本書のように身近な生命に耳を傾け、自然とは何かということについて想像力を羽ばたかせることから始めるのが、実はとても大事なことなのかもしれません。
(担当/吉田)