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誰も1000万ドル以上持つべきではない!超富裕層による世界の歪みを正す、資産制限という衝撃の提案

リミタリアニズム
――財産上限主義の可能性
イングリッド・ロベインス 著 田中恵理香 訳 玉手慎太郎 監訳・解説
リミタリアニズム

昨今、イーロン・マスクやトランプ大統領といった、超富裕層のやりたい放題ともいえる言動が世間を騒がせています。彼らが世界を揺るがし続けている以上、超富裕層が存在しえない仕組みを真剣に考えるべき時が来ているのだと言えます。
しかし、それはどのように実現するのでしょうか。気鋭の経済学者イングリッド・ロベインスは、大胆にも「個人の資産に上限を設けること」=「リミタリアニズム」(財産上限主義)により、彼らの生む世界の歪みを正すことを提案します。本書は、そのラディカルな政治哲学により、民主主義を見つめなおすように迫る1冊です。

実際問題、超富裕層はどのくらいわたしたちより豊かなのでしょう。ある研究で、その参加者はCEOの給料は未熟練労働者の平均10倍くらいと考えていて、これを4.6倍までに抑えるのがよいと回答しました。しかし実際には、研究でデータが得られた国の大半で、CEOの給料は未熟練労働者の給料の10倍をはるかに超え、何十、何百倍だったのです(アメリカ:350倍超、フランス:50倍)。つまり、私たちは超富裕層の資産をかなり低く見積もっており、またそのために、超富裕層の資産は適正と思える範囲内でないにもかかわらず、あまりにもその富が大きすぎて現実の資産の差を認識できていないのです。

また、その超富裕層は、現実にはどのように世界を歪めているのでしょうか。以下のような具体的な社会的な不正義の例をあげることができます。
・巨万の富は、そもそも非常に多くが、不正な手段を通じている場合が多い。
・膨大な資金により政治家、権力者をコントロールすることで、民主主義を歪め、政治的不安定さを生んでいる。
・資産上位10%が炭素排出全体の48%を占めるなど、環境負荷の最も高い存在である。

とはいえ、個人の資産を制限するということは、どのように正当化されうるでしょうか。それについて、本書では先述の「不正な手段による蓄積」の点と、「高額の報酬も当人のみの努力の結果に帰するものではない」という観点から、丁寧に触れています。

もし、リミタリアニズムが実装された場合、どのような社会の改善が期待できるのでしょうか。経済的権力の均衡、極端な貧困層への即時的対応、階級の分断の緩和などのほかに、なにより超富裕層自身にとっても、その富が生み出している様々な過剰な重圧から逃れるメリットがあるといいます。本書の提案をきっかけに議論がうまれ、社会がよりよくなるきっかけとなれば幸いです。

(担当/吉田)

著者紹介

イングリッド・ロベインス(Ingrid Robeyns)
哲学者、経済学者。ユトレヒト大学倫理研究所教授。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの社会的排除分析センターの客員教授も務める。2018年、オランダ王立芸術科学アカデミーの会員に選出。2021年、ウィーンのFLAX財団から不平等研究とフェミニズムに関する功績を称えられ、エマ・ゴールドマン賞を受賞。

訳者紹介

田中恵理香(たなか・えりか)
東京外国語大学英米語学科卒、ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士課程修了。訳書に、『「失われた30年」に誰がした:日本経済の分岐点』(早川書房)、『女性はなぜ男性より貧しいのか?』『RITUAL(リチュアル):人類を幸福に導く「最古の科学」』(ともに晶文社)、『むずかしい女性が変えてきた――あたらしいフェミニズム史』(みすず書房)、『巨大企業17社とグローバル・パワー・エリート 資本主義最強の389人のリスト』(パンローリング)などがある。

監訳・解説者紹介

玉手慎太郎(たまて・しんたろう)
東北大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。東京大学医学部特任研究員などを経て、2021年より学習院大学法学部政治学科教授。専門は倫理学・政治哲学。主な著書として、『ジョン・ロールズ:誰もが「生きづらくない社会」へ』(講談社現代新書、2024年)、『公衆衛生の倫理学:国家は健康にどこまで介入すべきか』(筑摩選書、2022年)がある。
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