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徴用工って「たぶんこうだったのだろう」と納得できる研究論文。
本書は若手研究者による最新の研究論文をまとめた本である。戦時中の朝鮮人労働者の問題は長い間、論争の種になって来た。それは1965年に刊行された朴慶植著『朝鮮人強制連行の記録』(未来社)によるところが大きい。軍国日本によって強制的に連行され、奴隷労働をさせられた、かわいそうな朝鮮人というイメージが作られた。これは日韓の賠償問題にまで発展し、今日まで尾を引いている。しかし、それは本当だろうか。いま韓国でもこの歴史観に異を唱える学者や論文も現れている。
まず第一に戦時中の日本は兵隊にとられる若者が多く、労働力が不足して困っていた。一方、朝鮮国内は徴兵を免除され、若年労働力が余っていた。また朝鮮は労働生産性が低く貧しかったので、内地に出稼ぎに行こうという人が多かった。入国制限をかいくぐって隙あらば内地でひと稼ぎしたい若者が多くいたのである。
これを活用しない手はない。政府も日本企業側もこれを細心の注意をもっておこなっていたことがわかる。初期段階の応募による人集めから、官斡旋の段階、そして大戦末期の「徴用」までそろそろと拡大していった。これはあまり一気に大量に入ると途中でより有利な職へ逃亡するものが増えて、管理ができないからである。そういう兆候も見えていた。
本書では一次資料を丹念に読み解くことによって当時の労働実態を再現しようと試みている。例えば第4章で北海道最北端の炭田、日曹天塩炭鉱の賃金表の研究というのがあげられる。著者が近年発掘した新史料の検証である。よく言われる朝鮮人労働者は日本人労働者より安く使われ、給与水準が低かったという指摘のウソ。どう見ても似たような待遇だし、やめてもらったら困るから、企業側もいろいろ工夫して待遇を考えていることがわかる。当時の一般国民の給与水準よりいいぐらいだ。
第3章では『特高月報』という、悪名高き特高警察が発行していた資料を読み解くことをしている。朝鮮人労働者は特別高等警察の監視対象者だったので、このような監視報告が残されているのである。これまでこの『特高月報』は「朝鮮人奴隷労働説派」の有力な資料として使われていた。労働争議やもめ事が細かく書かれていたからだ。監督官による過酷な管理、虐待、体罰が原因で起こったもめ事の証拠として使われていた。ところがそのもめ事も朝鮮人側の原因によることも多かった。サボタージュや素行不良、飲酒して暴れるというようなことだ。それをとがめて逆に集団で押しかけ、騒動になることがある。これらを「奴隷労働説派」は無視している。著者の検証ではどう考えても朝鮮人の方が悪いという事件もあった。企業側は何とかみんなをなだめて気持ちよく働いてもらおうと努めているのがわかる。これらからわかることは朝鮮人労働者側も一方的に抑圧されていたわけではなく、いたって元気であり、何か起こると集団で管理側を追い詰める力を持っていたようだ。
朝鮮人戦時労働者の実態というのは、もちろんなかなかわからない。生き残っている労働者に取材して語ってもらうのも一法だが、それもバイアスがかかっていることもある。
本書では残されている一次資料をまず虚心を持って読み解き、全体像をつかむことの必要性を述べている。歴史学者の基本ではなかろうか。本書を読むと、当時の朝鮮人労働者は体力旺盛で、よりよい待遇の職を求めて、逃亡も辞さず、日本での過酷な労働をものともせず、ある意味異国の生活を楽しんでいたようにも思えるがいかがだろうか。
(担当/木谷)