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昭和12年東京日本橋に生まれた木久扇師匠は御年87歳、いまや落語界の重鎮となった師匠はまた、小さいころから祖母に連れられ芝居見物に行くなど、根っからの演芸好き。その木久扇師匠に見たり聞いたりしてきた昭和の芸能の思い出をエピソードを交えて語ってもらったのがこの本である。
師は最初漫画家を志すが、途中で落語家に転じて、名人(「芝浜」で有名)三代目桂三木助、次いで八代目林家正蔵(のち彦六)に弟子入りする。テレビの人気番組『笑点』の初期から大喜利メンバーとなり、林家木久蔵としてお茶の間の人気者になった。今年3月、55年の長きにわたりレギュラーを務めた『笑点』に引退を告げた。この間、落語家、タレントとして芸能界を生き抜いてきた人生は多彩であり、また多くの芸能人との出会いがあった。換算すると今年は昭和100年という節目でもあり、木久扇師匠の波瀾の落語家人生と、昭和の芸能人の回想をロング・インタビューし、まとめたのが本書である。聞き手は同じく落語家の林家たけ平氏。氏は昭和歌謡曲のインタビュー集を出すほどの芸能好きで、この本でも随所に木久扇の好きな歌謡曲を聞き出して解説しており、本書の昭和芸能史に厚みをもたらしている。
本書は主に喜劇人、落語家、(師の好きな)チャンバラ・スターなどを主に語っているのが特徴である。出てくるのはエノケン(晩年のエノケンに優しくしてもらった)、トニー谷(ハワイでよく見かけた)、てんぷくトリオの伊東四朗(家が近かった)、三波伸介(女剣劇の敵役だった)、横山やすし(ラーメン党の副党首、仲が良かった)、コント55号の坂上二郎(本に書いたらおごってくれた)、堺駿二(ファンだった)など。落語家では師匠の三木助師(病魔に侵された頃、落語界の重鎮たちを全員枕元に招いた)、彦六師匠(木久扇の物まねネタだが人柄の良さがわかるエピソード満載)、『笑点』の盟友、桂歌丸さんのこと。映画スターでは勝新太郎(幅広の外車でガードレールを壊しまくる豪快エピソード)や松方弘樹、往年の大スター片岡千恵蔵や嵐寛寿郎など。
師匠は高名な漫画家・清水崑の弟子だけあって漫画・イラストの腕前は玄人はだし、本書にも寄席小屋などの風景や喜劇人の似顔絵がふんだんに挿入されていてとても楽しい。また最後の章には前座時代によいアルバイト先だったキャバレーでの司会の話など1970年代の上野界隈のキャバレーの思い出なども珍しい。
本書は木久扇師匠の半生を縦軸に、愛すべき昭和のコメディアンたちを回想した貴重な大衆演芸史となっている。
(担当/木谷)
目次
目次
はじめに
●思い出Ⅰ(戦前篇)
下町育ち
戦時中の浅草・映画
戦前のラジオ・空襲警報
ごはん粒
●人
エノケン、ロッパ
榎本健一
トニー谷
シミキン・堺駿二
片岡千恵蔵
高田浩吉
勝新太郎
清水崑
桂三木助
三木助から正蔵へ
林家正蔵
田中角栄・横山やすし
コント55号
てんぷくトリオ
三波伸介
桂歌丸
●チャンバラ
チャンバラスター
松方弘樹・近衛十四郎
チャンバラ同好会
●思い出Ⅱ(戦後篇)
映画館アルバイト
女剣劇
西荻窪の闇市
流行歌
ラーメン・餃子
貸本屋
アメリカ占領下のアルバイト
停電
洋画
戦後のラジオ
テレビ黎明期
●楽屋ばなし
寄席
昭和の名人たち
寄席以外での商売・前座時代
本牧亭
目黒名人会
名人たちの住まい
文治・正蔵の旅
前座時代の副業
布施明、オリビア・ハッセー
レギュラー番組
海老一染之助・染太郎
●キャバレー
キャバレーの達人
ボーナス
キャバレー以外の仕事
ショーの中身
いやんばか~ん
●木久扇の好きな歌(解説・林家たけ平)
1「東京行進曲」「赤城の子守唄」「東京ラプソディ」「別れのブルース」
2「ジープは走る」「星の流れに」「ちょいといけます」「港が見える丘」
3「憧れのハワイ航路」「異国の丘」「買い物ブギ―」「野球小僧」
4「逢いたかったぜ」「港町十三番地」
昭和百年を前に あとがきにかえて