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「習近平」とは何者なのか?

紅い皇帝 習近平
マイケル・シェリダン 著 田口未和 訳
紅い皇帝 習近平

党・国家・軍を支配下に置いた終身国家主席

 現在の中華人民共和国には三つの権力が存在する。中国共産党総書記、国家主席、軍事委員会主席(人民解放軍)であり、習近平はひとりでこの三権を掌握している。毛沢東以来、誰も独占しえなかった強大な権力の頂点だ。
 いま、終身国家主席となり「中華民族の偉大な復興」を高々と掲げ、国内外への強権的な膨張政策を進める習近平とは、いったい何者なのか?
 本書は、習近平の生い立ちから、幾多の謀略、粛清、権力闘争を生き抜いて現在の座にたどりつくまでを詳細に描き、その実像に肉薄するものである。

過酷な下放生活から這い上がっていく

 習近平は1953年、北京市で共産党高級幹部の習仲勲の息子として生まれる。それら高級幹部の子弟は「太子党」と呼ばれる特権的地位にある。
 だが習仲勲は毛沢東の猜疑心から粛清の対象となり、文化大革命時には息子の習近平も地方に「下放」される。その過酷な経験を通じて忍耐力と庶民感覚を養い、政治的適応力を培ったという。文革終了後に特権的地位である「太子党」として復帰、共産党に入党する。太子党の人脈を活かしながら福建省、浙江省、上海市等の地方統治で実績を積んでいく。
 やがて中央政界に上り、政治的対立を避けつつ実務能力を評価され、胡錦濤時代の派閥闘争を乗り越えて2008年、国家副主席に就任、12年には中国共産党中央委員会総書記(最高指導者)に。13年に国家主席に就任し18年には憲法を改正して終身統治の座を獲得する。

粛清と情報統制、個人崇拝による権力

 しかしながら、習近平の統治はきわめて強権的で、個人崇拝と独裁色が強い。反腐敗運動を掲げながらも、実際には政敵排除の手段として利用、対立していた薄熙来を失墜させ、権力の集中を進めていった。また、言論統制と情報操作、個人崇拝を日常化させ強力な監視社会を構築している。同時に新疆ウイグル自治区や香港での弾圧、台湾への圧力も強化していき、対外的にも「一帯一路」戦略で経済的影響力を拡大するものの、各国の債務問題を引き起こして国際社会との対立を深めている。

紅い皇帝が支配する「習王朝」の強権的な構造に肉薄する

 こうした軌跡を描いてきた習近平という人物とは何者なのか?
 それぞれの時代において周辺の人びとは習近平をこう評する。
無口で勤勉で慎重、つねに周囲を観察し中立をたもつが、冷徹で計算高く、敵対者には容赦がない、そして現在は古いタイプの統治者であり、個人崇拝を求める絶対的支配者。
 本書では、習近平の権力闘争と粛清の詳細な実態のみならず、知られざる彼の私生活や家族、一族の巨額資産にも迫り、習政権の核心にある危険な力の実態に肉薄する。

(担当/藤田)

本書目次

  • 第一章 一九五三年、北京
  • 第二章 毛沢東に仕えた父・習仲勲
  • 第三章 文化大革命の嵐
  • 第四章 下放という試練
  • 第五章 復権した「太子党」
  • 第六章 『習近平と愛人たち』
  • 第七章 史上最年少の省長
  • 第八章 伝説の歌姫と再婚
  • 第九章 天安門事件
  • 第十章 権力の座に昇る表舞台へ
  • 第十一章 習一族の莫大な資産
  • 第十二章 権力への険しい道のり
  • 第十三章 スターリンを手本とする統治システム
  • 第十四章 薄熙来との対立
  • 第十五章 政敵薄熙来の破滅
  • 第十六章 完全統制
  • 第十七章 粛 清
  • 第十八章 個人崇拝
  • 第十九章 「一帯一路構想」
  • 第二十章 パンデミックの年
  • エピローグ 二人の独裁者

著者紹介

マイケル・シェリダン(Michael Sheridan)
1989年6月に香港と中国から最初のレポートを送り、その後は『サンデー・タイムズ』紙の極東特派員を20年間続け、中国の興隆、1997年の香港返還と香港民主化運動を報じた。それ以前にはロイター通信、ITN、『インディペンデント』紙などで、中東の戦争、国際外交とヨーロッパの政治などを、ローマ、ベイルート、エルサレムを拠点に報道した。『スペクテイター』、『タブレット』、『ヴァニティフェア』、香港の『信報財經新聞』などにも寄稿している。2021年に香港の歴史を批判的に描いた『The Gate to China』を出版した。

訳者紹介

田口未和(たぐち・みわ)
上智大学外国語学部卒。新聞社勤務を経て翻訳業に就く。主な訳書に『中国の「一帯一路」構想の真相』『国旗で知る国際情勢』(以上、原書房)、『神と銃のアメリカ極右テロリズム』(みすず書房)、『デジタルフォトグラフィ』(ガイアブックス)など。
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