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予測にまつわる奇妙な実話を数学で読みとく

「予想外」を予想する方法
キット・イェーツ 著 冨永星 訳
「予想外」を予想する方法

◆「予想外」の出来事にビックリさせられるのは、なぜ?

 本書は、古今東西の予測にまつわる奇妙な実話を、数学で読み解いていく本です。
 信じがたい偶然、嘘から出た誠、番狂わせ、見当違いなどの「予想外」は、たびたび起こります。
 本書で紹介されている事例から取るならば、たとえば、2009年にブルガリアの宝くじ抽選で、1等当選の数字が2回連続で同じになるということがありました。1967年には、ある男がイギリス予知調査局へ電話をかけ、近いうちに航空機が山岳地帯で墜落し、123名か124名の犠牲が出るだろう、という趣旨のことを話しました。その1か月ほど後に、実際に墜落事故が起こり、翌日の新聞の一面には「航空機事故で124名が死亡」との見出しが躍ったそうです。2010年のサッカー・ワールドカップでは、水族館のタコ、パウルくんが、ドイツ代表の8試合の結果予測を見事に的中させ、ニュースになりました。
 私たちがこれらの出来事に驚かされるのは、なぜなのでしょうか。
 こんな話を見聞きすると、私たちはつい、現実世界になにか「おかしい」ところがあると思いがちです。しかし、じつは「おかしい」のは現実世界ではなく、それを見る私たちの「認知」なのです。これらの事実の裏には隠された数理的な仕掛けがあるのですが、私たちはそのことに気づかず、ただただ、驚いているのです。

◆世界中から「予想外」の出来事の実話を数多く集め、数学的に解説

 私たちの脳は、確率やランダムさを扱うのが不得意です。それに加えて、さまざまな認知バイアスを持っています。あらゆるものが比例などの線形関係で増減すると思い込む「線形バイアス」や、ランダムなノイズの中にパターンを見いだしてしまう「パターン化特性」など、数多くのバイアスのせいで、私たちは、数学的に考えれば実は驚くほどでもないことに、しょっちゅう驚いているのです。
 つまり、私たちは数学を使わない限り、世界を正しく認識することも、正しく予測することもできません。したがって、自分と世界を安全に保つこともままなりません。さらには、人間の認知バイアスを知り尽くした人に騙され、つけ込まれてしまう危険さえあります。
 世界中から「予想外」の出来事の実話を数多く集め、数学的に解説し、私たちのバイアスを解きほぐす本書は、私たちに「予想外」を予想する方法を教えてくれるだけでなく、「予想外」の出来事を、数学を使って楽しみ、味わう方法も教えてくれることでしょう。

(担当/久保田)

目次

はじめに 「予想外」を予想する
予言の歴史は予言失敗の歴史である
予測のはずし方はじつにさまざま
不確かさには種類がある
人間は非線形な問題が苦手
「予想外」を予想する

1 予言・透視・占術
偶然性と曖昧さを利用するさまざまな占い
ランダムさを使って信じ込ませる
誰もが納得できる言葉を与える
お世辞を使って顧客を満足させておく
因果関係について魔術的思考に陥らせる
バーダー=マインホフ現象を利用する
確率に基づいて探りを入れるテクニック
記憶の想起を都合よくゆがめる
否定と肯定を駆使し疑われずに情報を探る
万能の話法「ウォーム・リーディング」
入念な下調べ「ホット・リーディング」
心霊術は害のないお遊びといえるか
教訓

2 起こりそうにない出来事が起こる確率
原因や意図を探したがる脳
奇妙な符合の科学研究における有効性
ノイズのなかにパターンを見いだしてしまう
「近接性原理」と「真に大きな数の法則」
起こりそうもないことがほぼ必ず起こる
組み合わせの数は急激に増大する
錯誤相関を見抜くことの楽しみ

3 ランダムの上手な取り扱い方
脳はランダムさを作り出せない?
鳩の巣原理で「確実だ」といい切る
成功したもののみを公表することでだます
試合結果を正確に予想し続ける動物
宝くじの期待当選金額を最大化する方法
自分の自由意志の存在を疑いたくなる実験
ランダム発生装置に行動をゆだねる?
選択肢が多すぎて選べなくなるとき
選択にランダムの力を借りることのすすめ

4 不確かさのなかでも推論はできる
方針転換は悪いことではない
最初の桁の数字がかなりよく従う法則
ベンフォード分布で不正会計をあぶり出す
世界は「ジップの法則」「べき乗則」に従う
個別事象は予測不能でも確率はわかる場合
「ベイズの定理」で信念を更新する
教訓1 新しい証拠がすべてではない
教訓2 異なる視点を考慮する
教訓3 自分の意見を徐々に変える
不確かさとうまく付き合う法

5 ゲーム理論で先を読み未来を設計
エジプトとイスラエルの6日戦争
相手の立場に身を置いて損得を考える
先制攻撃を選択せざるを得ないとき
そうするしかない「ナッシュ均衡」
「なぜそれは起きなかったのか」を考える
核武装が平和をもたらすという皮肉な事実
「狂人理論」による瀬戸際外交
3人による対決の思いがけない結末
「コモンズの悲劇」は世界のあらゆるところに
ゲームのルールを変えれば行動も変わる
新車購入時の価格交渉ルールを変える
全員が勝者になれるゲームに変える

6 線形バイアスに欺かれる
予想外に進んだ新型コロナワクチン接種
線形思考に陥って失敗する場合
株価変動を先読みする方法はあるか
反比例や逆数に直観がだまされる
累乗が関係するとさらに混乱
面積と体積の関係「2乗3乗の法則」
大きくなることによる弊害の数々
確率も時には非線形に振る舞う

7 雪だるま式に膨らむ影響
指数的成長バイアスによる過小評価
正のフィードバック・ループの威力
人名は自己成就的予言となり得るか
「プラセボ効果」という本当になる嘘
他者の影響による自己成就的予言
概念も指数的成長を見せて広まる

8 自らの行為が招く思わぬ結末
見せないようにすると注目が集まる
インセンティブの設定を間違える
目標の設定を誤ると悲惨な結果に
AIも目標達成の抜け道を取る
複雑なモデルほど優秀とはいえない
当たらない予言「自己破壊的予言」
「アンダードッグ効果」による番狂わせ
負のフィードバック・ループに生じる問題

9 予測の限界を知る
予測を原理的に不可能にする要因
数理モデルなしの推論の欠陥
「状況はいつも通り、すべてがめちゃくちゃ」
天気に関する格言に根拠はあるか
天気予報はなぜ評判が悪いのか
天気予報はどこまで正確になり得るか
予測に限界を課すカオスとは何か
予測可能な領域をわきまえる

エピローグ

謝辞
訳者あとがき
原注

著者紹介

キット・イェーツ(Kit Yates)
英バース大学数理科学科上級講師であり同大学数理生物学センターの共同ディレクター。2011年にオクスフォード大学で数学の博士号を取得。2020年に英国で刊行された著書The Maths of Life and Death(邦題:『生と死を分ける数学』草思社刊)は、英サンデー・タイムズ紙の科学書オブ・ザ・イヤーに選ばれた。本書は2冊目の著書となる。イングランド・オックスフォード在住。

訳者紹介

冨永星(とみなが・ほし)
1955年、京都生まれ。京都大学理学部数理科学系卒業。国立国会図書館、イタリア東方学研究所図書館司書、自由の森学園教員を経て、現在は一般向けの数学啓蒙書などの翻訳に従事。2020年度日本数学会出版賞受賞。訳書は、ワイル『シンメトリー』(筑摩書房)、ヘイズ『ベッドルームで群論を』(みすず書房)、マグレイン『異端の統計学 ベイズ』(草思社)、ウィルクス『1から学ぶ大人の数学教室』(早川書房)、オーディング『1つの定理を証明する99の方法』(森北出版)、ロヴェッリ『時間は存在しない』(NHK出版)など。
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