草思社

話題の本

このエントリーをはてなブックマークに追加

苦痛を味わう方が幸福になる?科学的に苦しみの価値を考察

苦痛の心理学
――なぜ人は自ら苦しみを求めるのか
ポール・ブルーム 著 夏目大 訳
苦痛の心理学

ホラー映画、激辛料理、SM、過酷な運動など、現代人はさまざまなしんどい趣味を持つ人が少なくありませんが、人はなぜ自ら苦痛や恐怖を求めるのでしょうか。実はそこには、科学的な理由があるのです。
本書は、人間にとって「意味ある痛み」というものを科学的に考察します。「苦痛」という一般にはネガティブなものと思われている要素が、むしろ「快楽」「意味」「充足」といったポジティブな体験と深く結びついているという逆説的な視点を示します。苦痛を伴いながらも、その後に訪れる安らぎや達成感を求める人間の心理を、心理学や進化論の観点から解き明かしていきます。
「痛み=悪」、「快楽=良」という単純な二元論を超え、本書は「人生をより意味あるものにするには、ある種の“適度な苦しみ”が必要だ」という考えを示します。著者はまた、幸福や快楽を「快適さ」や「苦痛のない状態」としてではなく、「意味」「目的」「努力」と結びついたものとして再定義します。
著者のポール・ブルームは心理学を専門とし、前著『反共感論』でも、共感のもつ負の側面にフォーカスし、大きな議論を呼び起こしました。本書もそんな著者ならではの、逆説的な視点から人間の心理を考察した書籍と言えます。
もちろん、本人の望まない苦痛は不要なものでしかありませんが、本書を読めば、いかに「適切な苦痛」が人生において重要なものであるかを理解いただけるかと思います。痛みについて考えたい人はもちろんのこと、人生の意味について考えたい方にもぜひ読んでいただきたい1冊です。

(担当/吉田)

著者紹介

ポール・ブルーム(Paul Bloom)
トロント大学心理学教授。イェール大学心理学名誉教授(ブルックスおよびスザンヌ・レーゲン冠教授職)。道徳、アイデンティティ、快楽の心理学を探求している。学術誌『ネイチャー』や『サイエンス』のほか、『ニューヨーク・タイムズ』『ニューヨーカー』『アトランティック・マンスリー』にも寄稿している。著書に『ジャスト・ベイビー―赤ちゃんが教えてくれる善悪の起源』(NTT出版)、『喜びはどれほど深い?―心の根源にあるもの』(インターシフト)、『反共感論』(白揚社)などがある。

訳者紹介

夏目大(なつめ・だい)
翻訳家。1966年、大阪府生まれ。同志社大学文学部卒業。『人間には12の感覚がある』(ジャッキー・ヒギンズ 文藝春秋)『ブラッド・コバルト』(シッダルタ・カラ 大和書房)『動物のひみつ』(アシュリー・ウォード ダイヤモンド社)『ソクラテスからSNS』(ヤコブ・ムシャンガマ 早川書房)『タコの心身問題』(ピーター・ゴドフリー=スミス みすず書房)など訳書多数。
この本を購入する