草思社

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数学者が綴る読解と思索の旅。“読む人”に向けて綴る珠玉のエッセイ

夏蜜柑とソクラテス
新井紀子 著
夏蜜柑とソクラテス

主著に『数学は言葉』(東京図書)、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』、『AIに負けない子どもを育てる』、『シン読解力』(東洋経済新報社)などがあり、AIと教育・数学リテラシーをめぐる活動で国際的にも知られる著者が、日々の出来事や大切な思い出に寄り添いながら綴ったエッセイを収録。過去の風景、大切な人とのやりとり、なぜか今でも心に残る一瞬…それらをそっと取り出して言葉にし、その過程を通じて、「記憶とは何か」「人間とは何か」を深く洞察しています。

表題作の『夏蜜柑とソクラテス』にこんな一文があります。
「包丁で夏蜜柑の皮を切るのは重労働だし、土用に梅を干せば日焼け止めクリームを塗っていてもシミが増えることだろう。それでも、そうしたい。そうする、と決めている。「ていねいな暮らし」のような意味ではなく、そうしておいたほうが『身のため』のような気がするのだ」
「なるべく機械に頼らず、野性の勘を研ぎすましていたい」と考える著者の姿勢にハッとさせられますが、その「ハッとさせられる」気づきが、この本の隅々にたくさん潜んでいます。

カバーには、著者の手編みのセーターを掲載。「余り毛糸で自分のセーターを編む時間が好き」と言う著者は、このセーターを「パウル・クレーのセーター」と呼んで愛用していますが、カバー写真を見ていると網目の一つひとつにこれまでの著者の日々が編み込まれているようであたたかい気持ちになります。
「日本エッセイスト・クラブ賞」など数々の賞を受賞した著者が、数式では表せない記憶、感情、言葉の余白を表現し尽くした、まさに新境地となる1冊です。

(担当/五十嵐)

目次

はじめに

人工知能が情緒を感じるようになる日
ポトスが買えない深いわけ
猫と金魚と喫茶店
夏蜜柑とソクラテス
浅草の男
老犬の恋
昆布を炊く
筋金入り
マンザナールの子どもたち
赤い雨
アイスストーム
もっか!の『おだんごぱん』
うちのリカちゃん
ユーミンと猫


これさえあれば、生きていける
「解ける」より「わかる」が尊い
数学の言葉が果たす役割
博士に愛されない数
ロボットは東大に入れるか
新書は「世界の断片」を提供してくれる
痴漢という犯罪に、科学の力で立ち向かう
教科書から学ぶ
心に残る本『赤毛のアン』
絵本を買いに
エリート男子の高校国語
土を耕す
ぐっちーさんへの追悼文
卵を料る(日本エッセイスト・クラブ賞受賞の言葉)


旅立ちの歌
雪降る里の蕎麦
あるお茶会の話
メインステージからの風景
ハーバードのお誕生日会
定理を釣る
人間キャンセル界隈
哲学を捨てる
運動音痴と読解力
魔法を学ぶ(令和五年度一橋大学入学式に寄せて)
おわりに

著者紹介

新井紀子(あらい・のりこ)
国立情報学研究所 社会共有知研究センター長・教授。一般社団法人 教育のための科学研究所 代表理事・所長。東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学五年一貫制大学院を経て、東京工業大学より博士(理学)を取得。専門は数理論理学。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを務める。2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。科学技術分野の文部科学大臣表彰、日本エッセイスト・クラブ賞、石橋湛山賞、山本七平賞、大川出版賞、エイボン女性教育賞、ビジネス書大賞などを受賞。主著に『数学は言葉』(東京図書)、『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)、『ロボットは東大に入れるか』(新曜社)、『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』『AIに負けない子どもを育てる』『シン読解力―学力と人生を決めるもうひとつの読み方』(以上、東洋経済新報社)など多数。
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