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ヒトラーはなぜ「合法的」に権力を掌握できたのか? 世界の運命を決めた半年を克明に描く!

ヒトラー、権力までの180日
ティモシー・W・ライバック 著 山田美明 訳
ヒトラー、権力までの180日

 本書は、アドルフ・ヒトラーがドイツ首相に任命されるまでの約半年間(ナチスが議会で第一党になった1932年7月末~ヒトラーが首相になった1933年1月末)の緊迫した政治プロセスを、当事者の日記やその時々の新聞記事を使って精密に描き出した歴史ノンフィクションです。
 ヒトラーについて書かれた本は数多くあり、その権力獲得のプロセスもすでにたくさんの本で説明されていますが、本書がこれまでの本と異なるのは、その圧倒的な解像度の高さです。いつ、どこで誰が誰と会って、何を語り、何が決まったのか。そして当事者はそのとき何を思っていたのか。著者はこれまでアクセスできなかったアーカイブ資料なども駆使して、ヒトラーが権力の座に上りつめた最後の半年を「当時報道され、認識されたとおりに」再現していくのです。
 この期間、じつはヒトラー自身もぎりぎりまで追いつめられていました。選挙での失速、党内の路線対立、資金難、支持層の離反……。本書は、しばしば見落とされがちな「失敗し続けるヒトラー」の姿も丹念に描いています。にもかかわらず、ヴァイマル共和国を支えていたエリートたちは、それぞれの思惑と欲望、保身のなかで、ヒトラーを「使える存在」と誤認していくのです。もしこの場面で別の選択がなされていれば、もしこの人が最後まで妥協しなければ……そう思わずにはいられないような状況が随所で描かれています。そうした歴史の分岐点を具体的に積み重ねていくことで、著者はヒトラーの登場は「不可避だった」という神話を解体し、民主主義という仕組みが内包する脆弱性を読む者に突きつけるのです。
 ヒトラーの権力掌握の背景となった既成の政党政治への不信、政治的な暴力の蔓延、エリート層の過信――といった社会状況は、今日でも世界中で変わらずに見られます。運命論的な解説や単純化された善悪の物語を排し、二〇世紀最大の悲劇の「前夜」を克明に再現する本書が多くの読者に届くことを願ってやみません。

(担当/碇)

目次

第1章 星空を見上げて
・二枚組のレコード「国民への訴え」
・「政治的陰謀の達人」のネットワーク
・「難しい選択。吐きそうなほどだ」
・「ドイツ、ドイツ、ただドイツあるのみ!」
・ゲッベルスの疑念
・二つの選択肢

第2章 民主主義の犠牲者
・政治的暴力の拡大
・ヴェルサイユ条約第八八条
・ポテンパ村の殺人事件

第2章 木製の巨人
・陸軍元帥の晩節
・「ボヘミアの伍長」への失望と警戒
・ナチ党員が称賛した「テロ対策」法令

第4章 ヒトラーの賭け
・「それは合法的な手段によって?」
・相次ぐ女性スキャンダル
・突撃隊リーダーの友情と圧力
・会談前夜の苛立ち

第5章 一三日の土曜日
・差し出された「二番目の地位」
・「何が起きても私は知らない」
・「大統領に叱責されるヒトラー」報道

第6章 多数決原理
・黙殺されたナチ党版の議事録
・四分の三だけ支配する資格

第7章 ボイテンの男たち
・殺人者擁護の理論
・死刑判決が招いた混乱

第8章 抑止効果
・「二五・四八・五三」方式
・パーペン首相の「爆薬」

第9章 民主主義の武器庫
・七五歳の共産党議員による国会開会の辞
・「共和制の仕組みを使って、その制度を麻痺させる」
・ブリューニングの疑念
・ゲーリング議長、内閣不信任投票を強行
・ヒトラー後の指導者候補

第10章 虚偽の帝国
・メディアのナチ党包囲網
・フーゲンベルクとの確執の原因
・「破局政治」キャンペーン
・ハルツブルク戦線での小競り合い
・ドイツ国籍を取得し大統領選へ出馬

第11章 黄金の雨
・飛行機を駆使した遊説活動
・「私はむしろ愚か者でありたい」
・リーフェンシュタールを魅了したヒトラー演説
・「全国的にナチへの飽きが見られる」

第12章 虚像と実像
・「二〇〇万票減」の衝撃
・失われた無党派層の支持
・活動資金の枯渇

第13章 膠着状態
・連立政権をめぐる綱引き
・「絶対的権限」へのこだわり

第14章 出口なし
・深まる孤立感と焦燥
・グレゴール・シュトラッサーの目論み
・露呈したナチ党内の路線対立
・鮮明になる党勢の凋落

第15章 裏切り
・「敗北主義者」を批判するヒトラー
・国会開幕式での大乱闘
・古参幹部の離脱
・「穏やかに、穏やかに、穏やかに」

第16章 クリスマス・プレゼントの亡霊
・困窮したナチ党員の暴発
・苦難の一二月
・「一九三三年は勝利の年となるだろう」

第17章 リッペ州のヒトラー
・「血と土」の思想
・秘密会談の露見
・狙われた保守穏健派の牙城

第18章 シュトラッサーの出処進退
・「現実主義者」の挫折
・分裂させるか、穏健化を待つか

第19章 訪問者たち
・交錯する思惑
・「一党支配にはこだわらない」
・謀略家の油断

第20章 ヒンデンブルクにささやきかける声
・目前に迫った「憲法の麻痺」
・補助金スキャンダルの余波

第21章 運命の週末
・「ほかの可能性を試みる必要がある」
・ヒトラーの過大な要求
・宙に浮く首相の座
・国防軍の立場と軍事クーデターの可能性
・首相就任の条件
・高まる軍事衝突の可能性
・疑心暗鬼の連鎖

第22章 一九三三年一月三〇日
・突然の国防大臣人事
・運命の一日

終章 その後
・政敵の粛清と国会放火事件
・栄光と転落
・合法的に葬られた共和国

著者紹介

ティモシー・W・ライバック(Timothy W. Ryback)
ハーグ歴史的正義・和解研究所所長。パリ国際外交アカデミー事務次長、ザルツブルク・グローバルセミナー副会長兼常任取締役、ハーヴァード大学の歴史・文学領域の講師も務めている。『ヒトラーの秘密図書館』(赤根洋子訳、文藝春秋、2012年)、『The Last Survivor』『Hitler's First Victim』などの著作があり、世界各国の出版社から40以上の版で出版されているほか、アトランティック・マンスリー誌、フィナンシャル・タイムズ紙、ニューヨーカー誌、ニューヨーク・タイムズ紙、ウォール・ストリート・ジャーナル紙にも寄稿、また数々のドキュメンタリー番組にも出演している。

訳者紹介

山田美明(やまだ・よしあき)
英語・フランス語翻訳家。訳書に『スティグリッツ 資本主義と自由』(東洋経済新報社)、『人種差別主義者たちの思考法』『アスペルガー医師とナチス』(ともに光文社)、『AMERICAN MARXISM アメリカを蝕む共産主義の正体』『大衆の狂気』(ともに徳間書店)、『ホロコースト最年少生存者たち』(柏書房)、『批評の「風景」ジョン・バージャー選集』 (草思社)などがある。
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