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キュレーションでアート、そして世界を変えた男の半生

もし一人、「世界一のキュレーター」はだれかと問われたら、恐らく彼の名が筆頭にあがるのは、ほぼ異論ないのではないでしょうか。「HUO」=ハンス・ウルリッヒ・オブリストは、革新的なキュレーションで知られ、アート界はもちろん、建築その他の分野でも大きな影響を与えている人物です。
彼の行ってきた革新的な展示の代表的なものには、アーティストに指示を出し、各地の美術館が実行する「Do It」や、サーペンタイン・ギャラリーでのマラソン形式のトーク&パフォーマンス、既存の美術館での展示の枠を超えて公共空間やメディアを展示空間とする試み「museum in progress」などがあげられるでしょう。(本書の原題「Une vie in progress」はそこからきており、「未完の人生」という邦題にそのニュアンスを含めています)。既存の美術館に陳列される展示から、美術館の外へ、人々を巻き込みながら、完結しないような展示の在り方を彼は模索し続けています。いまでこそそのような展示方法も定着してきていますが、彼の実践なくしてはいまのような形はあり得なかったかもしれません。
また、『アイ・ウェイウェイは語る』といった著書でインタビューの名手としても知られるところです。
その膨大なコネクションと熱意、行動力はどこから来ているのか。なぜこれほど一線のキュレーターでいつづけることができているのか。そのことに、彼の人生はどのように関連しているのか。本書は、自身の語りでその半生について語る、ハンス・ウルリッヒ・オブリスト初の自伝となります。
彼の生まれと、幼年期の事故は彼の方向性を決定づける大きな要素でした。山々、そして他の国々に囲まれたスイスで生まれた彼にとって、その山は越えていくべきものでした。「越境」という概念が、生まれながらに育まれる環境があったと言えます。そして、6歳の時の交通事故により命の重要さを痛感し、深い絶望を経験したことが、アートという「希望のフォルム」を希求することに直結していきます。
彼は、とにもかくにもアーティストに会います。当時の美術雑誌にのっていた芸術家の電話番号に連絡をひたすら取り、直接会うことを絶対視していました。そこで、その後のキュレーター人生に深い影響を与える、重要な助言の数々を得ることになります。また、精神的な師と仰ぐ、グリッサンとの出会いも決定的であったでしょう。
展示についても、先の上げたもののほかに、デビューとなる、自宅での「キッチン展覧会」や、建築家レム・コールハースらも参加した移動型展覧会「Cities on the Move」、さらにデジタルゲームのアートの可能性にフォーカスした「WorldBuilding」などに触れています。
それらのアーティストたちと出会いの詳細や、展示についての記述はぜひ本編をお読みいただければと思いますが、強調しておきたいのは、彼の足跡が示すのは、キュレーション、ひいてはアートの可能性そのものと言えることです。作品の展示方法や見方を拡張してきた氏の生き方には、芸術やものの見方を変えてくれる力があります。激動の時代にこそお勧めしたい1冊です。
(担当/吉田)
本書で触れられるアーティストの一部
ゲルハルト・リヒター、クリスチャン・ボルタンスキー、エテル・アドナン、アビ・ヴァールブルグ、H・R・ギーガー、アネット・メサジェ、ルイーズ・ブルジョワ、ナム・ジュン・パイク、オラファー・エリアソン、ウンベルト・エーコ、エドゥアール・グリッサン、ハラルド・ゼーマン、アルベルト・ジャコメッティ、レム・コールハース、etc…
