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人はどのような過程を経てテロリストになっていくのか?現地取材をもとに新たなテロリスト像を提示する力作ノンフィクション!

2015年から16年にかけてフランスとベルギーで相次いで起きた下記の四つのテロは、世界に大きな衝撃を与えました。
▼辛辣な風刺で知られる週刊紙の編集部が標的となった「シャルリー・エブド襲撃事件」(同時に起こったユダヤ教スーパー襲撃事件と合わせて17名が死亡)
▼街角のカフェや劇場が襲われ130名の犠牲者を出した「パリ同時多発テロ」
▼EUの拠点で空港・地下鉄が狙われ32名の犠牲者を出した「ブリュッセル連続爆破テロ」
▼海岸沿いの遊歩道を散策する86名の生命が奪われた「ニース・トラック暴走テロ」
これらのテロはいずれも「イスラム過激派」によるものと報じられましたが、犯人側が死亡していることもあり、現在にいたるまで凶行の全体像が解き明かされたとはいえません。本書は朝日新聞の外信部で長く現地取材にたずさわってきた著者が、欧米社会を震撼させたこれらのテロの深層に迫ったノンフィクションです。
多くは欧州で生まれ育ち、一度は欧米社会の価値観になじんだ若者たちが、どのようなプロセスを経て自身の命を犠牲にすることすら厭わないテロリストになっていったのか。著者は丹念な取材と多角的な分析によって、人がテロリストになっていく過程を浮き彫りにしていきます。
本書には注目すべき記述が数多くありますが、なかでも重要なのは、彼らを凶行に駆りたてたのは信仰心や思想信条ではなかったという指摘です。
本の冒頭で著者は、「テロに関しては、これまで『貧困こそが過激派を生み出す』『テロの背景にはイスラム教徒への差別がある』といった俗説が広く信じられてきた。このような根拠に乏しい言説が流布される一方で、テロの根本的な原因である過激派ネットワークの実態はしばしば見過ごされた」「社会の問題を解決しないとテロもなくならないと思うなら、テロリストの論理の術中にはまる」と述べています。
本書では、宗教組織ではなく犯罪組織とテロ集団との関係性を指摘する興味深い研究も紹介されています。
テロという異常な現象はどのようして起きるのか。そして、テロの背後にはどんな人間がいるのか。本書はこれまでにないテロリスト像を提示する刺激的な一冊といえます。
(担当・碇)