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インチキなAIに振り回されているわたしたちへの処方箋

AI過大評価社会
――AIには何ができて、何ができないか
アルヴィンド・ナラヤナン、サヤシュ・カプール 著 的場知之 訳
AI過大評価社会

このところ、「AIで世界が滅びる」であったり、「AIですべての問題が解決する」など、AIの高性能さを無条件に前提したような主張が多く目に入るようになりました。それ以外にも、「そんなこともできるのか」と驚くようなAIの宣伝を見ない日はありません。しかし、実際のところ、それらはどのくらいの精度で有効なのでしょうか。もし「それ程有効でない」としたら、「なぜ」「だれが」過剰に性能を誇張しているのでしょうか。

本書は、TIME誌が選ぶ「AI分野で最も影響のある100人」に選ばれたAI研究のエキスパートが、これらのAIをとりまく社会を冷静に分析し、AIの性能を過剰に謳う社会を批判し、AIに本当にできることを見極め、あるべきAI社会を問うものです。本書は、「AI SNAKE OIL」というなんとも変わった原タイトルですが、この蛇の油とは、効能がないのにあるかのように謳って売られていた「インチキ」薬で、AI SNAKE OILとはそのAI版という意味になります。

まず、AIの現実的な性能について検証するのですが、本書にはAIに関する研究について、衝撃的なデータがあります。
ノルウェー科学技術大学のオッド・エリック・グンデルソンとシグビョルン・クイェンスモは、AI分野の主要誌に掲載された400本の論文を対象に、第三者の研究者が再現実験をおこなうのに十分な詳細情報が含まれているかどうかを検証したところ、400本の論文のなかに、再現性基準(コードとデータの共有など)をすべて満たすものは、なんと「ひとつも」なかった のです。その他にも、再犯リスクを予測するAIや、医療系の予測系AIなどで、実際には6割程度の正確さ(つまり、コイントス=50%より少しマシな程度)であることが述べられています。このように、AIの性能に関する数字には、多くの誇張が含まれているという事実があるのです。

では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。そこには、以下の4つの点において、さまざまな要因を挙げることができます。

① 研究者
資金や注目を集めようとするインセンティブが働き、厳密さよりも有用性を大きく喧伝してしまいます。
② 企業
研究データが公開されておらず、先の研究の再現性の問題のようなことが生じていたり、
数値が実際よりも効果的に操作されている可能性がある。
③ メディア、著名人
メディアや著名人はクリック数や視聴率を稼ぐため、プレスリリースの焼き直しや、ロボットのような誤解を招く画像を使ってAIを神格化・神秘化して報じます。
④ 人間の認知バイアス
自動化バイアス(AIが出した結果に対して、過度に信頼を置いてしまう傾向 )や、ハロー効果、アンカリングバイアスなどのさまざまなバイアスが、AIについてより顕著に作動している。

このように見るとき、重要なのは、AIの現実的な現状の性能と、人間の認識のゆがみを冷静に認識したうえで、正しいAIの未来を描いていくことだとわかります。
本書には、人工知能開発の歴史についての記述もあり、ここまでの道程の困難さを考えると、そうAIがすぐに人間を超越したり、亡ぼしたりすると考えるのはやや早計で、それよりも人間のAIの認識の方を改めるのがはるかに先決であると言えるでしょう。
加熱するAI報道に惑わされないために、今こそ読んでほしい1冊です。

(担当/吉田)

著者紹介

アルヴィンド・ナラヤナン(Arvind Narayanan)
プリンストン大学教授(コンピューターサイエンス)、およびプリンストン大学情報技術政策センター(CITP)所長。同大の「ウェブ透明性・説明責任プロジェクト」を率いて企業による個人情報の収集と利用の実態解明にあたる。機械学習が文化的ステレオタイプを反映することをいち早く実証した。2017年、米連邦政府が若手研究者に授与する最高の栄誉であるPECASE賞を受賞。共著に『Bitcoin and Cryptocurrency Technologies』『Fairness and Machine Learning』がある。
サヤシュ・カプール(Sayash Kapoor)
プリンストン大学情報技術政策センター(CITP)でコンピューターサイエンスを専攻する博士課程大学院生。研究テーマはAIの社会的影響。コロンビア大学、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)、フェイスブックでAIの研究・開発に携わった経験をもつ。2019年、情報技術と倫理に関する国際学会「ACM FAccT」で最優秀論文賞を受賞。『TIME』誌が選ぶ2023年版の「AI分野でもっとも影響力のある100人」にナラヤナンとともに選出された。

訳者紹介

的場知之(まとば・ともゆき)
翻訳家。東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科修士課程修了、同博士課程中退。訳書に、ローズ『生物学を進化させた男 エドワード・O・ウィルソン』(草思社)、ロソス『ネコはどうしてニャアと鳴くの?』(化学同人)、マイバーグ『空飛ぶ悪魔に魅せられて』(青土社)、カーシェンバウム『まじめに動物の言語を考えてみた』(柏書房)、コクラン『政治理論と動物』(みすず書房)など。
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