話題の本
話題の本一覧
- 刑務所で医師が見つめた受刑者たちの心の傷。
- インチキなAIに振り回されているわたしたちへの処方箋
- 道路から見える、動物たちと人間の未来とは
- 4月発売新刊のお知らせ
- 著者は「毎日新刊100冊見てる書店員」。読書と書店の“ちょうどいい距離”が見つかる本
- 「無理が通れば道理が引っ込む」のは、建築でもそうなのか?
- 膨大な資料と取材で未解決事件の実相に迫る。
- 日本には100年続く「奇跡の映画館」があった。まさにこれは昭和のシネマパラダイス!
- 中国が台湾に固執しつづける理由とは?
- 3月発売新刊のお知らせ
草思社ブログをご覧ください
刑務所で医師が見つめた受刑者たちの心の傷。

女性医師が飛び込んだ刑務所での任務
英国の刑務所の奥深くには、私たちが普段目にすることのない、剥き出しの人間ドラマが渦巻いている。一人の女性医師が綴った回顧録『プリズン・ドクター』は、成功したキャリアを捨てて「塀の中」へと飛び込んだ彼女が、そこで出会った魂の叫びを克明に記録した一冊である。
著者のアマンダ・ブラウンは、長年ロンドン郊外で地域密着型の総合診療医として活躍し、患者たちと深い信頼関係を築いてきた。しかし、キャリア継続を阻むある出来事が起こり、49歳にして自身のクリニックを去る決意をする。彼女が再出発の地に選んだのは、これまでの生活とは正反対の過酷な環境である「刑務所」であった。
「塀の中の医師」としての葛藤と成長
少年刑務所での自傷少年との出会い
最初に赴任したハンターコム少年刑務所で彼女を待っていたのは、社会の底辺や機能不全家庭で育ち、暴力的な解決手段しか学んでこなかった少年たちである。自らの内面を守るために虚勢を張る彼らの姿に、彼女は当初戸惑いながらも、次第にその裏にある孤独や脆弱性に気づいていく。そこで出会った自傷を繰り返す少年ジャレッドの出会いが、彼女の内面にある大きな変化をもたらすことになる。
悪名高い男性刑務所での激務
次に彼女が挑んだのは、ロンドン西部に位置する悪名高いワームウッド・スクラブス男性刑務所である。そこは自殺未遂やリンチ、ドラッグが日常的に蔓延する、英国で最も過酷な“職場”といえる。毎日のように緊急アラームに駆り立てられる激務の中で、彼女はプリズンドクターとして鍛えられていく。そこで働く刑務官たち含め、葛藤や苦悩、ときには無力感を感じながらも、刑務所という職場には彼らをつなぎとめる「何か」があった。
受刑者との交流を通じて使命に目覚める
現在(執筆当時)、彼女が身を置くブロンズフィールド女性刑務所は、ヨーロッパ最大級の規模を誇り、社会から最も見捨てられた女性たちが集う場所である。
これまでの刑務所と異なり、ここに収容された女性たちの多くは、過去に凄絶な虐待を受け、その痛みを麻痺させるために薬物に溺れて犯罪に手を染めたという、悲劇的な背景を背負っていた。彼女たちの尊厳が踏みにじられてきた現実を知るにつれ、ブラウン医師は彼女たちの良き理解者となり、心に寄り添う覚悟を固めていく。
「思いやりこそが最高の薬である」という真理
本書を通じて著者が一貫して語るのは、「罪状や人格にかかわらず、目の前で苦しむ人間を助ける」という崇高な医療の原点である。刑務所での多くの受刑者との出会いは、どんなに荒廃した世界にも、心の交流が生まれ、そこから希望や喜びが生まれうることを証明している。刑務所という隔絶された世界で、彼女は「思いやりこそが最高の薬である」という真理にたどり着いたのだ。
アマンダ・ブラウンの物語は、不条理な社会の縮図である刑務所を通じて、私たちに本当の人間愛の価値を問いかけてくる。塀の向こう側にある現実は過酷で残酷だが、そこには確かな再生への希望が息づいていることを、この一冊は力強く示しているのである。
(担当/藤田)
本書内容より
ハンターコム少年刑務所:孤独な少年の才能
18歳の少年ジャレッド/「思いを書き綴ること」/悲哀を綴った美しい詩/規則という壁・刑務所の厳しい現実
ワームウッド・スクラブス男性刑務所:暴力と絶望の日常
喉を掻き切った青年/ドバイ出身の裕福と強迫性障害/石鹸の贈り物「心の宝物」
ブロンズフィールド女性刑務所:虐待の連鎖と尊厳
欧州最大級の女性刑務所/25年にわたる薬物依存に苦しむ女性/性的暴行を受けた凄絶な過去/独居房での予期せぬ出産/母親の薬物依存や将来の母子分離の懸念
